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絵本『だいくとおにろく』鬼の無理難題をクリアせよ!

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大工と鬼の駆け引き、スリリングな展開が最大の魅力!

登場人物が実際に戦ったり追いかけっこなどのアクションをとるのではなく、心理戦による問答がメインという、民話絵本の中では少し珍しいタイプです。

 

主人公の大工は、次から次へ降りかかる厄介事のせいで、悩みの種が尽きません。

暴れ川に橋を架ける仕事は難しいし、目玉を鬼に無理矢理取られそうになるし、鬼の名前を当てろなんて難題を吹っ掛けられる始末。

そもそもの元凶である鬼といえば、ニヤニヤ笑いと馴れ馴れしい態度の下に、人ならぬモノの薄気味悪さを漂わせ、妙な圧迫感が……。

 

更に、絵の中には大工と鬼の心理戦を暗示する仕掛けがあり、絵本を読む子供も「どうするどうする~~!?」と、大工と一緒にハラハラドキドキするひとときを過ごすことになるかも。

でも、最後には鬼をぎゃふんと言わせる痛快なラストが待ってます!

それまでが鬱憤の溜まる展開だった分、気分が晴れ晴れしますよ~。

 

お話自体の地味な印象は免れませんが、ストーリーの理解力が育ってくる幼稚園年中(保育園年中)以降ならば、この面白さを分かってもらえるはず。

まずは一緒にじっくりと読んでみて下さいね。

 

 

簡単なあらすじ

何度橋を架けても流されてしまう川に橋を架けてほしい、と村人から頼まれた大工。

さーて、請け負ったはいいけれど、どうしたものかと悩む大工の前に、川から現れた1匹の大きな赤い鬼が取引を持ち掛けます。

俺が橋を架けてやろう、代わりにお前の目玉をよこせ。

それが嫌なら、俺の名前を当ててみろ!

 

 

絵本の紹介

この世ならぬものの美と恐怖

この絵本、絵がそれはもう素晴らしいんです!

特に、橋が完成する見開きのページは、まるで日本画、絵巻物同然。

その幽玄の美には思わずため息が……嗚呼、なんて美しい……。

そして、この橋と川を巡る描写が、大工と鬼の関係を暗示していて、深いんですよ~。

 

まず、橋そのものの存在が、実はかなり意味深です。

橋は昔から、異なる2つの世界を繋ぐものの象徴。

橋が繋ぐのは、現実の岸と岸だけではありません。

現世と常世、此岸と彼岸……人の世と人ならぬものの世も繋ぐのが橋。

この絵本では、鬼が橋を架けた事で、人間の大工へ鬼の手が迫っている暗示となり、読んでいる側は無意識の内にも危機感が高まります。

 

更に、その橋の色。

緑の野山に浮かび上がる朱い橋は不吉なまでの美しさ。

本来ならば、仏閣にてよく見かける丹(に)の色と捉えるべきですが、この絵本では鬼と橋は同じ朱の色……人ならぬものが架けた橋の美をよく表してますね。

美しいけれども、それは鬼の手が伸びてきているようにも見えるような……怖っ!

 

 

 

 

加えて、大工と鬼の直接対峙する場面でも、更なる危機感が煽られます。

大工がいる地上(=現世)と鬼のいる川(=常世)、その間にある岸辺はどちらに属するか曖昧な境界線。

その境界線である岸辺に立って、鬼と問答する大工……物理的にも、象徴的にも、近すぎる鬼との距離。

あら、もしかして大工は私達に見えている以上の危機に瀕しているのかも……と思うと、その置かれた立場の危うさにヒヤリとしますね。

 

人ならぬものの手が目玉を取ろうと伸びてくる恐ろしさが、絵の中から、じわりじわりと迫ってくる……川と橋の演出が美しければ美しいほど、怖さも効いています。

こんな恐ろしい災難に巻き込まれた大工の不幸っぷりときたら、本当に気の毒。

橋を架けるのはただの仕事なのに、鬼に目玉を取られかけるし、知るはずもない鬼の名前という難題を吹っ掛けられるし、私なら癇癪のひとつでも起こしたくなるかも~。

 

 

鬼が見せるワルの魅力

それに、この鬼が憎らしい顔してるんです!

目玉を取ろうという魂胆を押し隠して、ニヤニヤ笑いで甘言を弄する胡散臭さ。

橋の押し売り状態で、大工に有無も言わせずに目玉を取ろうとする厚かましさ。

大工の目玉をもう自分のモノだと確信しながら、わざとらしいやり取りをして、大工を嬲りものにしてやろうという陰険さ。

ぜーんぶ顔に丸出しで、実際にいたら、めちゃくちゃ嫌なヤツですよね~~~。

でも、なんでしょう、人間でもこういうワルイ人いるなあ、なんて思いながら、つい目が吸い寄せられてしまうのです。

表所が豊で、身振り手振りの派手な鬼の姿を見ていると、妙に人間臭くて、妙な親しみすら湧いてくるのは、憎まれ役としてはある意味優秀?

 

 

 

 

と、前半はここまで緊迫感を高めておいて、後半は鬼の名を手に入れた大工のターン!

口八丁の駆け引きの末に、鬼をまんまとやり込める場面には、これまでの溜飲も下がるような爽快感。

鬼の印象も、得体のしれなさから、大工に手玉に取られる間抜けさへ、ぐるっと転換し、話の愉快さの比率が急上昇。

人を馬鹿にしたような笑いを浮かべていた鬼が、大工に「してやられたっ!」となった時の表情ときたら!

それまでの「この鬼、嫌なヤツだな~」と溜め込んでいた反感や不満が一気に解消されるスッキリ感がありますね。

読んでいる子供からすれば、「鬼をやっつけた!」「ざまーみろ!」と快哉を叫びたくなるというもの。

これも鬼のそれまでのワルっぷりがいい仕事をしていた証拠、かもしれません。

 

実は民話絵本を描くのは難しいっ!

民話、つまり昔話は既に広く親しまれている分、良質な絵本としての個性を残すのは意外と難しいんですよ。

まず、話の筋があらかた決まっていますから、再話という形になるのですが、余計なアレンジはご法度、でも話の魅力を引き出しつつ、子供にもわかりやすく伝えなければなりません。

絵を描こうにも、各場面の印象は既に皆の中に漠然とした共通イメージがありますから、それを裏切り過ぎれば「これは違う」と弾かれるし、イメージ通り過ぎると「ありきたりだ」と弾かれかる……なかなかにワガママな要求でしょう?

昔話としての形を忠実に守りつつ、それでいて印象に残る爪痕を残す……これ、作る側からしたら、結構な難易度ですよ。

その、絵本にするのには意外と難易度が高いはずの民話へ、素晴らしい挿絵と文で息を吹き込んだ1冊。

それが、この『だいくとおにろく』です。

 

絵を担当した赤羽末吉さんは、民話の世界観を自分の中へ取り込み、豊かな想像力と表現力で膨らませ、筆に乗せて変幻自在に描き出す手腕の持ち主で、その実力をこの絵本でも存分に発揮。

文を担当した松居直さんによる、日本の風土や民俗に深く根差した言葉としての表現力、そして独特のリズム感を内包するオノマトペを駆使した文章も、大工と鬼のやりとりに生き生きとした魅力を与えています。

 このお2人のタッグは『ももたろう』で最も有名ですが、『だいくとおにろく』でも、お2人の相性の良さは抜群!

民話絵本を手掛けた方々は数多くいらっしゃいますが、このお2人はまさにトップクラスの組み合わせ、ゴールデンコンビですね。

 

 

そのゴールデンコンビが手がけた折角の絵本なのに、全ページがカラーではないのが本当に惜しいです。

基本的に、カラー・モノクロ・カラー・モノクロ、と交互に印刷されていて、大事な場面はちゃんとカラー。

しかし、人と鬼を色で対比させている絵本、色の意味がとても重要な絵本なだけに、どうせならば、全部を色鮮やかな挿絵で見たかったですね。

印刷のコスト的に仕方なかったのかな……。

 

 

我が家の読み聞かせ

我が家のちびっ子兄弟、ハイライトでもある鬼の名前を当てる場面がやはり1番盛り上がります。

答えをわざと間違ってみせる会話の楽しさは、普段の自分達もよくやって理解しているものですから、読み聞かせをしている時には、オリジナルの鬼の名前を横から口にして、ケラケラ笑いますよ。

 

絵本を読み終われば、今度は兄弟でお互いの名前の当てっこ。

「この子の名前はブー太郎だ!」

「ちがう~」

「じゃ、ブーブーおなら丸だ!」

「ちがうよー!」

最後はもはや2人で変わりばんこに絶叫して、何を言っているかわからなくなって、大笑い。

あー、これはどこかで見た光景と思ったら、私も子供の頃に同じような事して遊びましたっけ……読む人や読む時代が違っても、子供のやる事ってあまり変化がないですね。

 

なお、鬼が目玉を取ろうとする辺りを深く考えると、長男は怖くなってしまうそうです。

目玉を取るってどういう事かな、痛いのかな、見えなくなっちゃうのかな、一体どうなってしまうんだろう……という辺りで、考える事をやめ、私にピタッとくっつく息子。

「鬼が目玉をとるなんて、本当じゃないから、大丈夫だよね?」と確認してきます。

んー、目玉じゃなくても、要するに人間にとって取り返しのつかない代償を寄こせ、って事では……。

まあ、あんまり怖がらせるのも本意ではありませんので、「大丈夫、鬼はいなくなったから、目玉は無事だよ!」と返答してます。


 

まとめ

冒頭で述べた通り、派手なアクションがなく、地味な心理戦メインなせいか、同じ鬼の絵本でも、人気は『ももたろう』よりも劣る『だいくとおにろく』。

しかし、会話劇としての面白さ、絵に込められた比喩の奥深さにかけては、決して引けは取りません。

本来の「鬼」が人とは違う恐ろしい存在である事を教える一方で、ユーモラスで憎み切れない一面も覗かせる複雑さも、この絵本独特。

 

最後の大工の決め台詞はぜひ、お子さんと一緒に大きな声で叫んで、読み聞かせしてみてください。

もやもやがスッキリしまーす!

 

 

作品情報

  • 題 名  だいくとおにろく
  • 作 者  松居直(文)・赤羽末吉(絵)
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  1967年
  • 税込価格 990円
  • ページ数 28ページ
  • 対象年齢 4歳から
  • 我が家で主に読んでいた年齢 4~5歳(息子達、年中・年長に多く読みました)