絵本作家せなけいこさんのおばけ、子供の頃に読んだ方や懐かしい方が沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
丸い頭のオタマジャクシ風シルエット、ひょろひょろした手、猫みたいに縦長の瞳孔をした黄色い目に三日月形の赤い口……。
楽しいような、面白いような、可愛いような、でも、やっぱりちょっと怖ーいおばけ!
小さな子が最初に読むのにぴったり、おばけの入門編はこちらですよ〜。
簡単なあらすじ
時計が夜の9時を回ったら、そこから先はおばけの時間。
目の前に現れましたるは、暗闇に浮き上がる真っ白なおばけ!
さあ、おばけが起きてる子供を見つけたら、一体何が起こるのかな……?
絵本の紹介
怖いという感覚をおばけで体験しよう
人間が活動する昼間の時間と違って、夜は誰の時間だろう……ネズミ?猫?泥棒?
ワクワクしながらページをめくれば、満を持して、おばけが登場!
現れたおばけ、妙にユーモラスで親しみ深い印象なので、怖い中にも一瞬ホッ。
しかし、そこから人間の子供を連れて行ってしまうセリフは「あ、おばけはやはり人間とは違うんだ」と気づかされてゾッとする、その落差が怖さを一層引き立てていますね。
最後の場面は言葉で語る事すらせず、ただ空を連れ立って飛んでいく2体のおばけのシルエット……あれ、手を繋いでいたのは人間の子供だったはずなのに……?
背筋を走る冷たい感覚、肌が泡立ってチリチリする感覚、お腹の底がキュ~ッと絞られる感覚……感じ方は個人差がありますけれど、それは「怖い」という感情。
絵本のおばけから「怖い」を感じ取ったら、次は「おばけの国に飛んで行った子はその後どうなったんだろう、もう家には帰れないのかな……」と考えて、ブルブルッ。
慌てて絵本を閉じれば、おばけが飛んでいる絵本の世界から安全な現実へと戻って、ホッとひと息。
現代の刺激的なメディアに慣れた大人から見れば全然怖くないのですが、小さな子供にはこれで充分!
そして、忘れた頃にまた、あの「怖い」という感覚を味わいたくて、そっと絵本を開く……皆様も似たような経験があるのでは?
怖い=エンターテイメント
「怖い」という感覚、リアルで体験するのは大人でも嫌ですけれど、絶対安全な場所から高みの見物と決め込むならば、最高のエンターテイメント。
実際、人間の脳の仕組みとしても、心理学的にも、恐怖と快感は密接に関係していて、表裏一体なんだそうですよ。
昔テレビで見たお化け屋敷ドキュメント番組で、大き過ぎる恐怖には快感が生まれる余地はないけれど、そこそこの恐怖ならば快感が同時に生まれるので、そこを狙ってお化け屋敷を作るのだと解説してました。
確かに、本物の心霊体験は御免ですけど、遊園地のお化け屋敷ならば、「怖い」=「楽しい」ですものねー。
ホラー映画やホラーゲームも同じ仕組みを利用しているそう……いや~、人間の脳や心理って面白いです!
「ねないこだれだ」を聞かせてもらう子供達も、両親の腕の中や読み聞かせてくれる大人の傍という絶対安心な場所から、絵本の中のおばけを眺めるのは、やめられない止まらない刺激的なエンターテイメント。
絵本を読んでいる間だけ怖さを楽しみ、読み終わったら怖さから解放されて爽快感を覚え、その後はケロリと忘れる……これぞ「怖い」の正しい楽しみ方(?)かもしれません。
せなけいこさんの個性
せなけいこさんの特徴は、やはりこの独特の貼り絵。
メリハリの利いた色のコントラスト、ちぎった紙の質感を最大に生かした貼り絵は一見しただけで、「あ、せなけいこさんだ!」とわかりますね。
特に、おばけは、うさぎと並ぶアイコン的存在。
せなけいこさんは何冊ものおばけ絵本を出版されてらっしゃいますが、どの絵本にもこのオタマジャクシ型おばけが出演していて、時にはユーモラス、時にはゾッとさせてきたりと、読者に見せる顔を様々に持っているのが実に魅力的です。
この絵本では、おばけが特に怖い一面をちらりと覗かせているので、子供にとっての「丁度良い恐怖」を感じられる1冊ですね。
文章のテンポの良さも読み聞かせやすくて、気持ちが良いです。
幼児向けですから、文章がとても短くて単語中心なのですが、声に出して読み上げてみると、静寂の中にぽつりぽつりと音が響く感じが再現されていて、うまい具合に怖さを演出。
恐怖とは、見えないモノやよくわからないモノへ想像を膨らませる事でより大きくなっていきますから、くだくだと説明するよりも、字数を絞る事で想像の余地を大きく残す方が、おばけ絵本には合っているのかもしれません。
私が特に好きなのは、時計の音が鳴る場面。
昔、祖父母の家に遊びに行くと、夜中もボンボン鳴る時計が掛かっていましてね。
実際、ふと夜中に目が覚めた時、真っ暗な静まり返った部屋の中でいきなり時計の音が「ボーンボーン」と鳴り響くのは、結構びくっとするんですよ。
慣れてしまえばどうという事もないんですけれど、意識してしまうと、急に気になる時計の音……昼間は皆が揃って賑わう慣れ親しんだはずの部屋が、急に見知らぬ寂しい場所に見えてきて、音が余韻を残して鳴り終えた後の静寂が、ヒンヤリと首元へ漂ってくるような錯覚。
その音の記憶がこの絵本を読むと蘇るんです、描写がリアルなんですよね。
今時、柱時計やボンボン時計を置いている家は少数派ですから、あの感覚を肌で知っている子供も少ないでしょうが、それでも伝わるものはあるんじゃないかな?
我が家の読み聞かせ
我が家の長男の場合、1歳前後ではおばけが何かよくわかっていませんでしたが、3歳に差し掛かる頃にはおばけを理解して、この絵本を読むのを面白がるようになりました。
「夜はお外におばけが出るから、戸締りはちゃんとしなければね」と私がいつも真顔で言っているせいか、おばけは彼の中の常識となっている模様。
実は7歳の今でも、夜9時以降はおばけの時間、起きている子はおばけの国行きだと信じてます。
ふふふ、純真な子供を騙してすみません、子供の内は現実以外のモノを色々信じていた方が世界が豊かだと思っての事でして、私が面白いからではないんですよ……多分。
あ、でも、私の方から、おばけをホラー要素として扱った事は1度もありません。
暗闇やおばけをむやみに恐れる子にはしたくなかったので、恐怖というベクトルからはずらしています。
暗闇は夜なんだから当たり前に起こる自然現象、ただ暗いだけで意味はなし。
おばけは、特に何かの悪さをする訳でもなく、人間とは生きる場所や時間などの生態が違う、その辺の野良猫と同じ当たり前の存在。
野良猫を怖がる事がないように、おばけを怖がるような言動も特になし。
更に、家の中はおばけが一切出ない事になってるセーフティーエリア。
これだけ聞くと、おばけもそんなに怖くないでしょう?
私はただ絵本を読んだだけ~、絵本の解説をする事も特になし。
それでも、長男はこの絵本を繰り返し読む内に、自分から「おばけが怖い」という感覚を汲み出してきたんですから、せなけいこさんの描いたおばけの世界がどれほどわかりやすく、子供にとって魅力的か、察する事ができますね。
7歳にもなると、さすがに「ねないこだれだ」を読む年齢からは外れているはずなのですが、影響力は今もなお絶大。
幼稚園や小学校など周りから玉石混交で情報収集できるようになってくると、おばけのホラー要素を友達からも仕入れてくるので、9時前には必ず寝ないと!と自分からさっさと就寝します。
ただ、やはり「本当におばけはいるのか?」と疑う心も芽生えてはいるんですよね。
先日、特別に夜9時まで夜更かしをした日(普段は8時就寝)がありまして、その時の長男「おかーさん!9時を過ぎても、ぼくちゃんとここにいるよ!もしかして、あの絵本はウソなんじゃない?おばけなんていないんじゃない?」とはしゃぎながら質問。
あ、そう?
君はおばけがいないと思うの?
まあ、家の中にはそもそもおばけは入れないしねー。
じゃ、自分で確かめてみたらどうかな、夜のお外へ出てみて、自分でおばけがいないかどうか、調べてみればいいんじゃない??
真顔で答える私に対して、長男は「いや、やっぱりいると思うから、やめておくよ……」と及び腰。
ふふふ、まだ自分の目と耳でおばけの真実を調べる勇気はないようです。
まとめ
怖いけど見たい、見たいけど怖い!
怖いもの見たさ、は好奇心ゆえの衝動。
大人でも時々駆られるこの衝動、特に好奇心の塊である小さな子供にとっては抗いがたいんでしょうね……「怖いなら見なければいいのに」というセリフ、子供のいる家庭ならば、1度は発した経験があるのでは?
この魅惑の衝動を子供がまず最初に経験するならば、ぜひ良質なおばけ絵本「ねないこだれだ」を読んでみて下さい。
ちょっとだけ怖くて、とっても面白いおばけが、いつでも皆様をお待ちしてます。
作品情報
- 題 名 ねないこだれだ
- 作 者 せなけいこ
- 出版社 福音館書店
- 出版年 1986年
- 税込価格 770円
- ページ数 24ページ
- 我が家で主に読んでいた年齢 1~3歳(長男の場合、本格的に怖がり始めたのは4歳くらいからでした)