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絵本『たまごのあかちゃん』新しい命の誕生を伝える工夫が満載

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たまごを題材にして、生命の誕生をテーマとする赤ちゃん向け絵本。

一見子供の落書きみたいな絵に見えますが、実はとっても深〜い秘密あり。

計算され尽くした色と線、卓越した言葉選びのセンスがとにかくすごいんです。

音読してわかる、歌を口ずさむようなリズム感、鳴き声の擬音の面白さは、読み聞かせだけでなく、パネルシアターにも向いていますね。

ただの赤ちゃん絵本と思うなかれ、読めば読むほど面白さが増してくる……!

赤ちゃんの生命力と未来へ進むパワーが詰まった素敵な1冊、騙されたと思って、まずは1度読んでみてくださいっ。

 

 

 

簡単なあらすじ

小さなものから大きなものまで、次から次へと出てくるたまご。

中からは何の生き物の赤ちゃんが生まれてくるのかな?

ニワトリ、カメ、ペンギン、そして……!?

 

絵本の紹介

タイトルのネーミングセンスに感服!

この「たまごのあかちゃん」というタイトル、すごくないですか!?

例えば、ニワトリはたまごを産み、そのたまごからヒヨコが生まれ、ヒヨコが成長してニワトリになる……だから、ニワトリの赤ちゃん(ヒヨコ)はいても、厳密には「たまごの赤ちゃん」は存在しません。

でも、乳幼児は最初、たまごから生物の赤ちゃんが生まれる事をそもそも知らない訳ですよ。

 

普段食べている卵料理の味は知っていたとしても、その卵料理はたまごを割って作っている事、そのたまごから本来は赤ちゃんが生まれる事、いろんな生き物の赤ちゃんがたまごから生まれる事……教えてもらって初めて知る新事実。

その事実を知らない、もしくは理解していない子供にとって、たまごはたまご。

人間には人間の赤ちゃんがいるように、たまごにはたまごの赤ちゃんがいる、という論理が子供の頭の中では成立しうるんですよね。

 

その、本来存在しないけれど、赤ちゃんにとってはごく当然な存在である「たまごのあかちゃん」というワードを表紙に堂々と掲げておいて、

 

たまごのなかで かくれんぼしてる あかちゃんは だあれ?

 (引用元:福音館書店 神沢利子・文 柳生弦一郎・絵「たまごのあかちゃん」1987年出版)

 

と問いかけ、たまごからニワトリやペンギンの赤ちゃんが生まれてくる様子へスムーズに繋いで、新しく生まれた命へ「こんにちは」と呼びかける……。

たまごを巡る命の仕組みを教えていく流れの上手さときたら、素晴らしいの一言!

たまごから命が生まれるのって、大人には知っていて当たり前ですけど、世界の何もかもが「初めて」であふれてる子供にとっては、新鮮な驚き。

実際に目にしようものならば、「な、なんかでてきたーっ!」と興奮するでしょうね。

子どもへ寄り添った、命への好奇心と驚きを込めたタイトル。

凡人の私にはとても思いつかないセンスで、もう脱帽です。

 

 

 

 

隠された工夫のオンパレード

そして、絵も素晴らしい~!

私は最初に絵を見た時ですね、作者さんには失礼ながら、子供が描いた落書きみたいだなあ、と思ったんですよ(本当に失礼で申し訳ないです)。

これくらいなら、誰にでも簡単に描けるんじゃない?なんて思ったりして……。

しかし、よーく読み込んでみると、それはとんでもなく愚かな考えでした、大口叩いてすみませんっ!

それぞれのたまごと赤ちゃんに使われている色の選び方から線1本に至るまで、細部が考え抜かれていて、その緻密さはため息が出るほどですよ。

 

色使いの計算

使用する色数を絞りこみ、白と黒を含めて8色で表現。

コントラストの強い色の組み合わせは、強いエネルギーを感じるセレクトです。

出てくる生き物のたまごと赤ちゃん達が6種類に対して、それぞれにメインカラーを1色ずつ割り振り。

たまごの絵と赤ちゃん達の絵をそれぞれのメインカラーででリンクさせる事で、たまごと赤ちゃんとの間に因果関係が繋がっている事を視覚的に訴えかける仕組みになっています。

一見は百聞に如かず、幼児には言葉で説明するよりも、目で見て理解する方が早いですものね。

 

線の表現にご注目

太い線で描かれた伸び伸び大らかな絵には、たまごの生命力が溢れそうな力強さ。

しかし、この絵の素晴らしい所はそれだけではありません。

それぞれの生き物ごとに、たまごの割れ方が違うんですよ。

ギザギザした形に割れていたり、モニュッとした穴のような割れ方をしていたり……つまり、たまごの殻の硬さまで表現してあるんです。

生き物の最低限の要素だけを表現したシンプルな絵を採用する一方で、生き物ごとの違いを細かく表現している事には衝撃!

 

絵に隠された物語要素

文に語られている以外の要素も、絵に盛り込まれていて、面白いですよ。

例えば、ニワトリの赤ちゃんには母鶏が寄り添っているし、カメの赤ちゃんは1匹ページの外へ姿を消しているし、ヘビの赤ちゃんの傍にはまだ生まれていないたまごがあります。

絵から読み取れるちょっとしたオマケの物語要素が、絵本としての奥行を出しているんですね。

それぞれの赤ちゃんのサイドストーリーを子供と一緒に色々想像して、お喋りしてみてはいかがでしょうか?

 

 

命の誕生を歓迎する

生まれてきた赤ちゃんに呼びかける「こんにちは」という言葉の選び方もイイ!

新しい命へ「この世界へようこそ」という想いと心からの祝福を感じます。

ラストに赤ちゃん達が共に並んで行進する姿には、未来へと向かっていく希望とすくすく成長していく生命力が感じられて、読んでいるこちらも元気が出ますよ。

最後のページには、ワニの赤ちゃん達が卵から生まれた姿。

命は次々生まれてくるんですねー。

 

全ての要素がうまく組み合わさって、小さな子供へ命の誕生をわかりやすく親しみやすく楽しく伝えている事に気付いた時は感動……凄い絵本です。

 

 

我が家の読み聞かせ

我が家のちびっ子兄弟にも沢山読み聞かせましたが、次男3歳時は特にお気に入りの絵本でしたよ。

次男は、たまごから生まれるごっこが大好き。

ダンゴムシみたいに丸まって、たまごになりきってからの「ぱかーっ!うまれたー!」と遊ぶ姿は超絶可愛くて!!

きゅいきゅい鳴きまねしながら、よちよち歩きの亀や恐竜の赤ちゃんのマネ。

あまりの可愛さ、癒やしっぷりに何度も読み返して、次男たまごを量産しまくったのは、私です。

 

 不思議なもので、たまごごっこをしている内に、「この生き物はたまごから生まれる、あの生き物はお母さんのお腹から生まれる」という判別ができるようになっていったんですよね。

段々知識がついてきた上での、たまごの実演(ごっこ)を通して、その判別がよりはっきりとできるようになってきた感覚がします。


 

まとめ

たまごは、生まれるまでは何のたまごなのか、わかりません。

もしかしたらニワトリのたまごかもしれないし、恐竜のたまごかもしれないし、まだ見た事のない生き物のたまごかもしれない……たまごには沢山の未来と可能性が詰まっています。

もしかしたら、私達人間の子供達も胸に「未来と可能性のたまご」を温めているのかも……、だなんて考えるのも面白いとは思いませんか?

この絵本を読んでいた子供達が大人になった時、「たまご」から孵るのはどんな未来なんでしょう。

私はこの絵本を読むと、そんな思いに駆られて、ワクワクします。

さて、我が家のちびっ子兄弟の「たまご」からはどんな未来が生まれるのかなー?

 

 

作品情報

  • 題 名  たまごのあかちゃん
  • 作 者  神沢利子(文)・柳生弦一郎(絵)
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  1987年
  • 税込価格 990円
  • ページ数 24ページ
  • 我が家で主に読んでいた年齢 1~3歳(5歳には卵のマネが減って寂しいです)