絵本むすび

実際に読み聞かせしたオススメ絵本・児童書の紹介ブログ

絵本むすび

絵本『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケさんのデビュー作

スポンサーリンク

スポンサーリンク

独特のとぼけたユーモアあふれる絵と軽妙な問いかけで、1個のりんごを巡る「もしかしたら」の可能性をいくつも積み上げる、愉快な絵本『りんごかもしれない』。

これぞ人気絵本作家ヨシタケシンスケさんの快進撃の始まりとなる1冊。

そして、子供達にとっては、ただ面白いだけではない、哲学の世界への招待状です。

果たして自分に見えている世界は本当に見えている通りなのか?

「もしかしたら○○かもしれない」を追求する楽しさは、まさに哲学の入口!

子供が読んでも大人が読んでも面白い、ヨシタケシンスケワールドの醍醐味がたっぷり詰まった『りんごかもしれない』をぜひご堪能ください。

 

 

 

 

簡単なあらすじ

学校から帰ってきたぼくが見つけたのは、テーブルに置いてある、ごく普通のりんご。

でも、もしかしたら、これはただのりんごではないかもしれない。

見えている面の裏側はミカンかもしれない。

中身は機械かもしれない。

謎の生命体かもしれない。

食べたら巨大化するかもしれない。

もしかしたら、このりんごは……!?

 

絵本の紹介

「もしかしたら」を考える=哲学?

テーブルで見つけたりんごを巡り、「ぼく」がりんごの可能性をひたすら追求します。

よくもまあ、りんごひとつでそんなに色々思いつくね、と呆れるほどの「もしかしたら○○かもしれない」を連発。

SFやファンタジーの世界にまで足を突っ込んだ「ぼく」の想像の数々には、絵本を読んでいる子供も「え~!」「そんなバカな!」とビックリしたり、ツッコミを入れたり、笑い転げたりするでしょう。

表紙にも、裏表紙にも、本文にも、見返しにも、りんごの「もしかしたら」がびっしり描きこまれていて、ひとつひとつを見るだけでも、非常に面白いです。

数え方にもよるでしょうが、1冊通して、少なく見積もっても、ざっと60~70個は「もしかしたら」が描かれてますよ、すごいアイデア力ですね!

で、単純に「もしかしたら」が面白い、だけではないのが、この絵本のポイント。

「もしかしたら」と考える行為そのもの、ひとつのモノを多面的に捉え、可能性を思考する楽しさを提示しているのが、この絵本の優れた点です。

 

 

確かに、目の前にあるのは、普通のりんごかもしれないけれど……普通って何だろう?

何を以って、普通のりんごだと判断しているの?

目に見えているものが全てだ、と本当に思う?

……「ぼく」の疑問と想像を通して、子供達へ投げかけられる問い。

求められるのは、自分の知識や経験に頼らず、目の前のモノに対して疑問を抱き、仮定を繰り返し、思考する事。

りんごって何だろう……と、りんごの本質をどこまでも自由に思索し探究する行為、それは哲学の入口です。

 

哲学、というと何だか難しく聞こえがちですね。

でも、そんな面倒くさい話ではないんですよ~~、難しい話は私にもわかりませーん。

専門家ではない私が正確に定義できるかは微妙ですが……乱暴に言ってしまえば、哲学とは人生や世界、目の前にあるモノに至るまで、問い、思考し、自らの答えを見出す事、でしょうか。

これ、絵本の「ぼく」がやってる事、そのままではないですか?

目の前のりんごが本当にただのりんごなのかを問い、もしかしたら……の仮定をいくつも思考し、最後には自分自身の答えを出す。

簡単ですけれど、ちゃんとした哲学だとは思いませんか?

 

この絵本を初めて読んだ時、たまには息子達に流行りの絵本でも読み聞かせようかなーと思っていただけだったので、ぼくが辿るプロセス、その思わぬ深さに「あらら、いつの間にか、気がつかない内に哲学の入口にいたよ??」と驚きました。

そして、その哲学の初歩を息子達がが自由に楽しんでいる事にプチ感動。

既に体得した言語や文化により思考を定義されがちな大人よりも、人生の学びの途中にいる子供は、周りの世界と肉体的・感覚的に強く繋がっています

その繋がっている世界へ自由に問いかけ、あらゆる可能性を考え、自分に納得のいく答えを求める哲学への扉……知識や経験に縛られていない分、子供はこの扉を容易に開ける事ができるんですね~。

いや、すごい、考える=哲学を自然に絵本の中に取り込んで、エンターテイメントとして楽しませるなんて、作者のヨシタケシンスケさんは只者ではありません!

 

 

ヨシタケシンスケさんについて

今を時めく絵本作家ヨシタケシンスケさんのデビュー作『りんごかもしれない』。

この絵本がきっかけで、ヨシタケシンスケさんは一躍絵本界の時の人となりました。

デフォルメを利かせたシンプルな絵は特徴的で、本屋でも一目見ただけで判別できるのは私だけではないはず。

その人気ぶりは相当なもので、今や出す絵本は軒並み人気です。

 

以前、絵本『だるまさんが』の過去記事でも触れましたが、絵本界では新人が絵本ランキング等の上位へ食い込むのは結構難しいんですよ。

まあ、どんな業界でも古参に挑む新参者が苦戦するのは同じかもしれませんが……。

 

ehonmusubi.hatenablog.jp

 

しかし、ヨシタケシンスケさんは、とにもかくにも絵本界の流行を掴むのには大成功している訳です。

うーーん、すごいですねえ~!

元々イラストレーターでいらしたとは言え、生半可な絵本ではここまでの存在になれないですよ。

 

ヨシタケシンスケさんの絵本は、扱う題材が違っても、その構造は共通してシンプルです。

ひとつのテーマに対して、「もしも」の可能性を徹底的に模索して積み重ねる!

基本的に「もしも○○だったら」を羅列していくのみで、登場人物のキャラクター性も薄く、そこには具体的な物語が描かれる事はほとんどありません。

でも、その「もしも」がどんどん現実からSFやファンタジーの世界にまで足を突っ込み、思いもつかぬ荒唐無稽なものへ変化していくのが、非常に面白いんです。

 

 

ひとつのモノ、例えば、りんごひとつにしても、その見え方や捉え方を常に疑う……考えるという行為そのものが、こんなにも面白いと教えてくれる絵本、今まであったでしょうか?

更に、物語とは「もしも」の可能性を掘り下げる事から始まるものですから、読者の大人も子供も、絵本で提示された可能性からいくらでも自分で想像を広げ、好きなように物語を読み取る事ができる訳です。

ある程度の大枠は示されているとは言え、絵本1冊から提供される思考の自由度の高さが飛びぬけているんですよね。

絵本をどう読んで楽しむかを読者側に任されている感覚、これは新鮮……!

ラストのオチも毎回秀逸で、時にユーモアたっぷりの笑いを誘い、時には思わずホロリとさせる……これには、子供よりもむしろ大人の方がやられてしまうかも。

 

元々、「もしも」の可能性を積み上げて、絵本の面白さを追求する手法は、先日ご紹介した長新太さんの『キャベツくん』シリーズなどでも取られてはきましたが、ここまで直球ストレートにとことん「もしも」の可能性だけへ焦点を絞ってきた絵本作家はなかなかいなかったのでは、と思います。

 

ehonmusubi.hatenablog.jp

 

子供にも人気があるでしょうが、哲学への入口になるほどの思考する面白さを再確認させてくれる点からも、大人の支持の高さも相当なものでしょうね。

身も蓋もない言い方ですが、絵本を実際に購入する親、言わばお財布である親の心をがっちり掴んでいるならば、まだまだヨシタケシンスケさんの人気は続きそうな気がします。

 

 

ちなみに、ヨシタケシンスケさんの絵本は、配色は別の方がやっているようですね。

『りんごかもしれない』も、奥付に他の絵本ではまず見ない「彩色・デザイン」という項目があり、他の方のお名前が掲載されているんですよ。

アメリカの漫画に見るビジネスとしての分業制ほどではないにせよ、絵本としては珍しい分業の仕方ですよね。

哲学的思考すら滲む文作・個性的なイラスト・現代的な配色センスの3つが揃っているとはすごい作家さんだと思いましたが、どうやら2:1で分業していると知り、今度は別の意味でめちゃくちゃ感心しました。

確かに、1人で全部を賄う必要性なんてありません。

1作トータルを全て1人で賄うのではなく、分業を活用する事で、これからの絵本はもっともっと素敵な作品が出てくるのではないか……そんな可能性を見る気がして、ちょっとワクワクさせられます。

その意味でも、『りんごかもしれない』は、私にとっては斬新な1冊ですね。

 

 

我が家の読み聞かせ

我が家の息子達、りんごには兄弟がいるのかもしれない、と始まるバリエーション「らんご、りんご、るんご……」のくだりが大好き!

特に、りんごの仲間達「あんご、いんご、うんご……」の50音○んごの一覧ページに差し掛かった時、最初から最後までひと息で読んであげれば、尊敬の眼差しを向けてくれます。

こちらとしては、息継ぎなしにフルスピードで噛まずに読み上げないといけないので、結構大変なんですけど、うまく読めた時には謎の達成感!

息子達も対抗して読み上げようとしますが、7歳と5歳では肺活量的にもひと息で読み上げるのは困難。

悔しがる2人に向かって、大人の威厳を漂わせたドヤ顔で「もうちょっとだったね~」と半分慰め半分煽るのが恒例です。

いやー、楽しい時間ですよ~、この勝負はまだしばらく私の圧勝ですね。

 

この絵本を読み終わった後は、息子達と一緒に「もしも○○だったら、どうする~?」と話すのが恒例。

子供自身に「もしも○○だったら」を考えてもらえば、発想力を養う練習にもなりますし、仮説思考力を鍛える練習にもなります。

また、考える楽しみを絵本の外でもやってみるのは、親にとっても、子供の成長を感じられる時間になるので、ぜひオススメですよ。

 

我が家で、この絵本を最初に読み始めたのは、息子達が3歳&1歳頃。

その頃は、今目の前にある瞬間だけを生きていた赤ん坊同然の息子達が、7歳&5歳になって、自らが経験してきた過去を振り返り、未だ想像も及ばぬ未来も何年か先までならば少しずつ想像できるようになった姿を見ると、その精神的成長には感慨深いものがあります。

 目の前の現実には存在していない「もしも」を想定できるようになり、それを脳内で複数展開できるようになる……赤ん坊の頃から考えられない、高度な思考能力を身につけた事で、息子達はこの絵本の面白さがどんどん理解できるようになってきました。

しかも、世界がまだまだ知らない事で溢れている子供である息子達にとって、描かれた「もしも」はもしかしたら本当かもしれない……という感覚も味わえるのですよ。

なんて、贅沢な絵本の楽しみ方……!

私も子供の頃にこの絵本を読んで、その楽しみ方を経験してみたかったです、息子達が羨ましい~~!!

 

 

まとめ

ヨシタケシンスケさんの絵本をまだ読み聞かせた事がない方は、まずお好みのテーマを1冊手に取ってみるのをオススメします。

なぜ子供も大人もヨシタケシンスケさんの絵本に夢中になるのか……まずは自分で読み聞かせてみるのが1番!

この『りんごかもしれない』は、中でも1番シンプルに思考そのものを楽しめる作品ですよ。

 

禁断の果実、知恵の木の実であるりんごを絵本で味わえば、小さな子供でも、考えるヒトとしての一歩を踏み出せるかも?

 

 

作品情報

  • 題 名  りんごかもしれない
  • 作 者  ヨシタケシンスケ
  • 出版社  ブロンズ新社
  • 出版年  2013年
  • 税込価格 1,540円
  • ページ数 32ページ
  • 対象年齢 3歳から
  • 我が家で主に読んでいた年齢 3~6歳(もしもを考える遊びは5歳前後からうまくなりました)