50年以上、世代を超えて愛される乗り物絵本、その面白さは折り紙付き。
ちびっこ消防車のじぷたが、大きな消防車達を尻目に大活躍する様は痛快です。
小さな子供は小さなじぷたに共感する事、間違いなしでしょう。
手に汗握るスリリングさとドキドキが止まらない展開を楽しみ、ラストはスカッと爽快感。
乗り物絵本を得意とする山本忠敬さんが描く消防車達の絵は、臨場感たっぷりで、まるで本当に消防署にいるような気分を味わえますよ。
車好きは勿論、車に興味がない子供でも、ワクワクするストーリーを楽しめる絵本ですから、持っていて損はありません。
小さくてもやる時はやるじぷた、その雄姿は一見の価値あり!
簡単なあらすじ
町の消防署で働く、ジープを改良して作られた消防自動車のじぷた。
小さなじぷたは、家から出たボヤを消して回る働き者です。
けれど、仲間の消防車達には馬鹿にされてばかり。
自分だって、大きな火事の時にも、皆に負けないくらい活躍できるのに……。
いつも悔しい思いをしているじぷた。
でも、消防署へ掛かってきた1本の電話が、じぷたの大活躍のチャンスに!?
絵本の紹介
消防車達のマウント合戦
いやはや、マウント合戦は人間の十八番ではなく、消防車の間にもあるんですね~~。
自分がいかにすごいのかを自慢しまくるポンプ車達、元々がジープで小さいじぷたの事は馬鹿にしまくりです。
曲がりなりにも火事を消す仕事へ従事しているくせに、ボヤなんてじぷたで充分だと言わんばかりのセリフを口にするとは言語道断!
大きな火事現場みたいな目立つ仕事もあれば、ボヤみたいな地味な仕事もある訳で、どちらも人の命や財産が掛かっている火事場なのに……!
町の子供達も、大きくて立派なポンプ車達ばかりを持て囃します。
じぷたは働き者なのに、日々の頑張りを認めてもらえないのは、悲しいですよね。
地道にコツコツ仕事をする人よりも、目立つ仕事で成果を上げる人の方が評価されるとか、社会人生活あるある過ぎて、大人にはなかなか刺さる内容。
じぷたが「自分だってできる!」と自負する思いを抱きながらも、チャンスを貰えず、周りを羨んで悲しむ姿は切なすぎます。
この時点で、読んでいる子供は、じぷたに共感するでしょうね。
大きな消防車達は大人、小さなじぷたは子供の自分。
自分ではどうにもできない理由で、チャンスがもらえない、日々の努力や出した結果を認めてもらえないなんて、理不尽!
小さいからって、半人前扱いされたくない!
自分と同じ小さなじぷたが、こんな悔しい思いを味わっているのですから、これはもう、子供は自分自身を投影してしまいますよねー。
大人と同じように色々やってみたい年頃の子供ならば、より一層じぷたへ自分の姿を見るのでは?
いや、子供だけでないかも、読み聞かせている大人の私だって、心の中で応援してしまいます。
じぷた頑張れ、じぷた負けるな!
じぷたの大逆転にスッキリ!
時の運はいつか必ず巡ってくるモノ。
じぷたが自分を卑下して凹んでいる時、隣村の山小屋が火事だという電話が掛かってきた事で、事態は一変します。
山小屋の火事を消せなければ、山火事になる可能性も……!
山の上の小屋を目指して、細く険しい山道を走り、火事を消せるのは、山道に強いジープを改良したじぷただけ!!
猛然と消防署を飛び出し、山道を登るじぷた。
緊迫感溢れる現場の空気の中、消防士達と懸命に連携して力を尽くすじぷたは、ただ目の前の火事を消す事だけに専念します。
無事に鎮火した後は、じぷたを取り巻く状況は一気に変わりました。
チャンスを生かし、懸命な仕事ぶりで評価されたじぷたは、新聞にも取り上げられ、今や町の子供達の人気者です。
ちびっこでも見事活躍したじぷた、普段の頑張りがこれ以上ない形で報われた姿を見るのは、とっても嬉しいものですね。
子供にとっては、小さくたってすごいんだ、子供も大人に負けないんだぞ、とじぷたを通して、普段の溜飲が下がる思いでしょう。
最高に爽快なラスト、じぷたのの代わりに、それ見た事かと思わずドヤ顔になりそう。
マウント取りまくりだった消防車達、子供達に囲まれた目の前のじぷたを見て、何を思っているのでしょうか。
じぷたの大逆転が、読んでいる子供達へ発想の転換を提示するやり方は見事です。
じぷたが元ジープで小さな消防自動車である事実は変わりません。
けれど、変わらない事実を理由にして、ネガティブに「できない事」を挙げるのではなく、ポジティブに「できる事」を見つける……発想を変えるだけで、物事の見え方が随分変わる事を物語からは読み取れます。
その結果として、町の子供達が最後に言うセリフがこちら。
「やあ、じぷたが いるぞ!
ちびっこでも、すごく せいのうが いいんだぞ!」
(引用元:福音館書店 文・渡辺茂男 絵・山本忠敬『しょうぼうじどうしゃじぷた』966年出版)
そう、小さくてもすごい、小さいからこそできる事がある。
「自分だからこそできる事」を見つけた今、じぷたが自信をなくす事はもうなく、正々堂々と日々の仕事に打ち込むでしょう。
そもそも、はしご車・ポンプ車・救急車・じぷた……全く違う個性を比べる事自体がナンセンスなんですよね~。
ジープ型消防自動車は、実際に道路事情の悪い場所や山道などで活躍していた車両でして、ビル火事を想定されたものではないのです。
適材適所とはよく言ったもので、それぞれに自分を活かせる道がある。
できる事できない事、どちらもあって当たり前。
ただ、それぞれの多様性の意義とお互いを補い合う重要性へ気づかず、自分の基準で誰かを貶めたり、威張ったり、自慢話をするなんて、随分視野が狭くてつまらない考え方だった訳で……モノの見方が狭すぎ。
じぷたを馬鹿にしていた消防車達も、これを機に反省した、かな?
読んでいる子供自身も、ぜひ、お互いを尊重して認め合う大切さを学んでくれると良いですね。
乗り物絵本の第一人者、山本忠敬さん
絵を担当した山本忠敬さんは、乗り物絵本にかけては、絵本界屈指の腕前!
絵本作家としての主な活動期は1960~1980年代、更に亡くなられてから十数年以上経過しているにも関わらず、未だに他の追随を許しません。
描かれた車や電車は、一見して型が古いものばかり……令和の今となっては、明らかに時代遅れです。
じぷたや仲間の消防車達を見てもお分かりの通り、50年以上前の出版ですから、いかにも昔の車なんですよ。
しかし、乗り物の型の古さなど一切問題にならない、圧倒的な魅力が山本忠敬さんの持ち味。
我が家の息子達は乗り物絵本好きで沢山読んできましたが、間違いなく、山本忠敬さんの乗り物絵本が彼らのナンバーワンです。
うーむ、一体、他の作家さんと何が違うのか??
山本忠敬さんのように、リアルな絵を描ける方は沢山いらっしゃるでしょう。
でも、多分、それだけでは子供の心は掴めないんですよね……。
山本忠敬さんの描く乗り物は、車体の特徴を余すところなく写し取った、徹底的なリアルさが基本。
そのリアルな絵で、前・後・横・斜め、どんな角度から見ても完璧な車体を描くんですよ。
実際、じぷたの絵本には、出動するはしご車を後ろ斜め45度から見るカットがありまして、これは他の乗り物絵本ではなかなか見られない貴重な姿!
子供が見たい角度、カッコイイと思う車体のポイントを押さえた上での写実性に基づいている絵を描くんですもの、それは子供の目が釘付けになりますよね~。
そして、その写実性、計算されたリアルを保ちつつ、絵本としての感情表現をほんの少しだけ取り込む匙加減が絶妙。
そのおかげで、走る車体には生き生きとした躍動感があふれます。
乗り物がただの鉄の塊ではなく、血の通った存在に感じるんですよね。
特に、乗り物自体が主人公の絵本になると、わかりやすい擬人化はされていなくても、感情表現が豊か。
例えば、じぷた達は、ヘッドライトに目の表情みたいなものがあって、それが感情を雄弁に伝えてくるんですよ。
次々と出動していく消防車達をじっと見送るじぷた。
一緒に整列する仲間達を横目でこっそり見るじぷた。
ラスト、子供達に囲まれて嬉しそうな笑顔のじぷた。
目は口程に物を言う、とはよく言ったものですね。
ヘッドライトに映るほんのわずかの光の反射から、じぷたの気持ちが伝わってきて、妙にチャーミングに見えてくるのは、私だけではないはず。
車の魅力を最大限に生かすべく、この絵本では、乗り物以外の背景をできるだけ省略して、ごくシンプルに描かれてています。
出てくる人間はかなりリアルに、それぞれを描き分けているものの、彩色は最低限で、基本モノクロ。
あくまでも、主人公はじぷた達消防車ですから、消防車、そして火事などの関連する事項以外の要素はほとんどカットされています。
それにより、余計な情報に邪魔される事なく、車の姿をじっくり見て楽しめるのも特徴ですね。
なお、山本忠敬さんの絵本『ずかん・じどうしゃ』には、消防車のページに、じぷたがカメオ出演してます。
物語のある『しょうぼうじどうしゃじぷた』とは違い、写実性により重きを置いた図鑑形式の絵本。
車好きの子にはとても人気がある1冊ですので、じぷた好きのお子さんがいらっしゃる方は要チェック!
余談:すべり棒の小ネタ
消防士達の出動場面にて、すべり棒が出てくる辺りに時代を感じます。
昔の映画やドラマで見た事ありませんか?
上から下へしゅるしゅる~っと滑り降りる棒、あれです。
昔は、日本の消防署にもすべり棒が設置されていて、2階から1階への移動に利用されていました。
実際、階段よりもすべり棒の方が移動スピードは早いらしいです。
しかし、消防士は通報を受けてから1分以内に出動する必要があります。
火事は1分1秒を争う事態ですから、一刻も早く現場に到着する為にも、無駄な動きは一切できません。
その緊急時に、すべり棒で降りる際に怪我をするリスクや、1人ずつすべる順番待ちをしているタイムロスを考慮すると、あまり効率的ではない訳で……。
現実には階段の方が安全で便利、という理由から、今は滅多に見かける事のない絶滅危惧種なんだそうですよ。
子供心にはすべり棒の方がカッコよく見えますが、やはり命懸けで仕事をする消防士にとっては実用重視なんでしょうね。
という事で、読み聞かせの時にすべり棒の豆知識を入れてあげると、お子さんによっては喜ぶかもしれません。
小学校には大抵登り棒がありますから、この話を知った途端に、消防士気分ですべり降りる真似を楽しんでくれるかも……?
我が家の読み聞かせ
出版社の公式HPを確認すると「対象年齢4歳から」とありますが、我が家では長男1歳半の頃からの愛読書です。
元々、私が子供の頃に大好きな絵本でして、我が子へ絶対に読み聞かせしたい1冊として、早めに手元へ揃えておいたんですよ。
それを当時1歳半の長男が本棚から見つけ出しまして、絵を見た途端に食いつきがすごい~!
いや、本当に文字通り、エンドレスで読み聞かせの日々。
毎日毎日じぷたじぷたじぷた……ひたすら連続で読み聞かせをせがまれた時は、じぷたの文字でゲシュタルト崩壊するかと思いましたよ。
1人でめくっている時は、ずーーっと消防車の絵を食い入るように見ていましたし、その集中力には驚かされましたね~。
今考えてみると、長男が消防車の活躍する姿をリアルに描いた絵本を読んだのは『しょうぼうじどうしゃじぷた』が初めて。
今まで止まった姿しか見た事のない消防車が、現場で生き生きと働く姿を見せているのですから、夢中になるのも当然だったのかもしれませんね。
ちなみに、1歳児に複雑なストーリーの理解はできませんから、最初の読み聞かせでは、文章を8割カット状態で、絵を指差ししながら楽しむ感じ。
それが年齢を重ねていくうちに、段々文章のカット率が下がっていき、4歳手前にはフルで読み聞かせができるようになりました。
お絵描きでじぷたを真似してみたり、山本忠敬さんの他の乗り物絵本と見比べたり……5歳までは間違いなくお気に入りトップクラスの絵本でしたよ。
ただ、じぷたと過ごした数年間が濃密過ぎたのか、6歳手前でついに飽きた模様。
それ以降、長男が自分からこの絵本を手に取る事は皆無となりました。
あんなにじぷた大好きっ子だったのに!
まあ、嫌というほど読み込んだ末の事ですから、長男的にじぷたはもうお腹いっぱいになったんでしょうね……。
まとめ
何回も書きました通り、車に興味がない子でも、この絵本をきっと面白いと感じてくれる……はず。
なにしろ、かく言う私も車や電車に一切興味がない子供時代でしたが、じぷたは別腹。
何度読んでも面白くて、文字通りボロボロになるまで読み込みましたからね。
個人的な意見で恐縮ですが、ぜひ一度試し読みして頂けると嬉しいです。
本当に面白い絵本は時代を超える、という良い見本が『しょうぼうじどうしゃじぷた』。
渡辺茂男さんが綴った胸躍るじぷたの大逆転ストーリーも、山本忠敬さんが捉えた車の本質も、1966年の初版から変わらず、子供達の心を魅了し続けています。
作品情報
- 題 名 しょうぼうじどうしゃじぷた
- 作 者 渡辺茂男(文)・山本忠敬(絵)
- 出版社 福音館書店
- 出版年 1966年
- 税込価格 990円
- ページ数 28ページ
- 対象年齢 4歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 1~5歳(次男は2~4歳がピーク)