物語と料理がコラボしたこまったさんシリーズは、約40年愛されているロングセラー。
『こまったさんのカレーライス』は、シリーズの第2作目です。
絵本から児童書への過渡期に読むのにぴったりの、物語としての面白さ。
そろそろ台所のお手伝いが色々できるようになった年頃にぴったりの、子供向け料理入門書としての面白さ。
両方楽しめて一石二鳥、食べるのが好きな子には必読書ですよ。
さあ、こまったさんと一緒にレッツ・クッキング!!
簡単なあらすじ
こまったさんはお茶目でキュートな花屋さん。
いつもすぐに「こまった」と言うのが口癖なので、花屋を一緒に営む夫のヤマさんが「こまったさん」とあだ名をつけています。
ある日、夕ご飯の支度をしようと早めに家へ帰ったら、ヤマさんが友達を今夜の夕食に招待したいと電話してきました。
えー、そんな急に言われても何を作ろうかしら、こまったわ〜!
絵本の紹介
こまったさんの魅力に迫る!
こまったさんシリーズは、表紙に”おはなし りょうりきょうしつ”と銘打っているだけあって、話の中に、料理の作り方を詳しく盛り込んでいるのが特徴。
この本を読むだけで、料理に詳しくなってしまうなんて、ちょっとお得感があるでしょう?
その料理を巡って、こまったさんが毎回ファンタジーな別世界へと迷い込み、不思議体験をするのもお約束。
今作ではカレーライスを作る途中で、お魚いっぱい海の世界へ迷い込みます。
カレーライスと言っても、牛肉・鶏肉・豚肉に留まらず、様々な海鮮のカレー、野菜のカレー、国によって様々なカレーがありますよね。
本作では、こまったさんと魚達の交流を通して、カレーの多様性にも触れつつ、ベーシックな日本のポークカレーを作り、ちょっと目先も変えたイカのカレーも作ります。
うーん、どちらも美味しそう!
お話の中には、料理に詳しくなる為の工夫もばっちり。
実は、こまったさん、料理はそんなに得意じゃないっぽくて……ミスをしたり、どうすればいいかわからなくなったりするのは日常茶飯事。
結婚している大人のはずなのに、料理に関しては読者である子供達に近い存在で、親近感が湧くようになってるんです。
また、料理のアドバイスがお話の中に所々差し込まれているのですが、特にここがポイントだという箇所には、こまったさんの相棒、九官鳥ムノ君のマークがつけられています。
ムノ君マークのおかげで、ポイントも一目でチェック!
料理が佳境に差し掛かれば、見開きのページ一杯に、こまったさんが歌って踊って料理するミュージカルが華麗に始まります。
突然始まる現実離れしたミュージカルに驚くなかれ、こまったさんは夢と不条理が支配するファンタジー世界に迷い込んでいるんですもの、これくらい当たり前!
リズムに乗って料理をするのは、なんだか楽しそうですよ~、一緒にやってみたくなりますね。
この本に込められた工夫は、それだけではありません。
どのページをめくっても、半分以上がカラーの挿絵がたっぷり描かれているので、読み聞かせはもちろん、小学校低学年からは自分で読むのにも、絵本感覚で気軽に挑戦できます。
出てくるファッションやインテリアのお洒落を目で楽しめるのも、長年の人気の秘密。
まずは、ファッション。
こまったさんは、頭につけている大きなリボンがトレードマークなんですが、そのリボンも含め、頭のてっぺんからつま先まで、作品ごとに違うファッションに身を包むお洒落さんなんです。
フリルたっぷりのエプロン、たっぷり膨らんだパフスリーブ、ボーダーのオールインワン、ミニスカート&スパッツ、スポーツファッションまで何でもあり。
ビビッドな色の組み合わせ、時には柄+柄も着こなす、こまったさん。
今から約40年前とは思えぬ大人可愛いセンス、私も子供の頃に読んで、こまったさんみたいな服を着てみたいと思っていましたが、大人になった今もそのセンスには憧れ~。
絵本や児童書の世界の中では、間違いなく屈指のファッショニスタ!
更に、大人になってから改めて読んでみると、こまったさんの溌溂としてフレッシュな若妻っぷり、花屋の仕事へ生き生きと取り組んでいる働く女性としての姿も魅力的で、そのファッションにふさわしく、かなり個性が立っているキャラクターだったのだ、と気づきますね。
次に、インテリア。
インテリアと言っても、花屋の外観や室内の調度、家具に至るまで、全部ひっくるめてなんですが、こちらも毎回、色も模様もデザインも全て違うんですよ。
さすがは花屋さんと言いたくなる華やかでカラフルな色使いだけでなく、水玉・三角・縞々などの幾何学的なパターンを駆使した、夢いっぱいのお店とお家。
ついでに挙げるならば、街並みすら可愛いっ。
この本でも、こまったさんがカレーを作るキッチンやダイニングは、小さな三角模様がベースの、それはもう可愛らしいお部屋で、子供ならば1度は夢見るような素敵なお家なんです。
お洒落なこまったさんのファンタジーな世界観と美味しい料理を彩る舞台装置として、これほどふさわしい背景はありません。
どうですか、寺村輝夫さんと岡本颯子さんのタッグがこれでもかとばかりに詰め込んだ隠し味の数々……私が偉そうな顔をする事じゃないですけれど、効いてますでしょ~?
カレーに入れる隠し味、家庭ごとにその種類は沢山ありますけれど、この『こまったさんのカレーライス』にも、お2人が入れた隠し味はまだまだあるかもしれませんね
私も読み聞かせしながら、まだまだ探してみます!
こまったさんの夫ヤマさんへイライラ!
えー、私も子供の頃から大好きなこまったさんの本ですが、個人的には、こまったさんの夫ヤマさんの言動にかなりイラッ。
同じ花屋で働く、自営業の共働き家庭なのに、仕事上がりのこまったさんへ事前の相談もなく、当日の夕方にいきなり友達を自宅へ複数呼ぶから、全員分の夕食を準備しろ、ですって……!
更に途中で更に人数追加とか、自分は何もしないでお酒を飲み始めるとか、そこかしこにちらつくダメ夫ぶりには、思いっきり頭突きしたくなります。
同じ店で同じ仕事をして働いているこまったさんへ、自分の交友関係に必要な準備を全部丸投げとか、あ・り・え・な・い~!
報告・連絡・相談の「ほうれんそう」は社会人の基本でしょうが!
いや、40年近く前の出版ですから、当時と今では家事分担や夫婦の役割などの考え方が相当違うとは思いますし、夫婦の形は夫婦の数だけそれぞれ違いますし、フィクションの世界にリアルを持ち込むのも無粋……それはわかっているんですよ。
それでも、私には、やっぱり読んでいて違和感が半端ないんですよねー。
え、わざわざ大勢の人数分の夕食をいきなり作ってもらっているのに、こんなに何もしない夫がいるの??
もし私がこまったさんの立場だったら、文句を言う気が失せるほど稼いでこいっ、と説教しちゃうかも……とついつい読み聞かせしながら、荒ぶってしまいます。
その後のシリーズ内で、ヤマさんの言動、多少はマシになっていきますけど……それでも、やっぱり及第点とはいきません。
子供向けの本だから、と大目に見る事もできますが、子供は大人の背中を見て育つもの。
誰かの為に料理をする喜びを否定する気はありませんが、例え、本の中であろうと、私は息子達に、ヤマさんみたいに何もしない大人の背中を覚えてほしくないなあ……。
とりあえず、この本を息子達に読み聞かせする時は、「ほうれんそう」の大切さ、人任せにせず自分で行動する大切さ、についても、軽く触れて話しています。
息子達が大人になって、ヤマさんみたいに振舞っていたら、これからの時代、将来のパートナーから愛想を尽かされてもおかしくないですからね。
ある意味、反面教師になってくれているヤマさん……。
とりあえず、息子達が第2のヤマさんになりませんように!
お菓子がテーマのわかったさんシリーズ
お料理がテーマのこまったさんシリーズに対し、お菓子をテーマにしたわかったさんシリーズもありますよ。
わかったさんはクリーニング屋を営む両親と暮らす女の子、口癖は「わかった」。
やっぱり毎回ファンタジックな別世界へ迷い込む不思議体験をしては、美味しいお菓子を作ります。
こちらは、巻末に詳細なレシピも載っていますので、初めてのお菓子作りはわかったさんでデビューしたという方もいらっしゃるかもしれませんね。
どうして、わかったさんにはレシピがあるのに、こまったさんにはレシピがないのかな、と不思議なんですが……うーん、お菓子作りは料理よりも計量と温度が命だから、でしょうか?
料理って多少の誤差ならば、どうにかリカバリーが利きますけど、お菓子作りは仕上がりへ致命的な影響が出ますから、レシピを載せているのかもしれませんね。
こまったさんとわかったさん、それぞれの魅力があって、甲乙つけがたし。
どちらも読んでいて、楽しくて美味しい本です。
個人的には、こまったさんの方がお洒落、乙女心をくすぐられるので好きですけれど、皆様はどちらがお好きでしょうね?
なお、それぞれのレシピブックも出版されていますので、実際に作ってみたい方はそちらが参考になると思います。
興味のある方はぜひご覧になってみて下さいね。
我が家の読み聞かせ
我が家の食いしん坊なちびっ子兄弟、こまったさんの大ファンです。
こまったさんを女の子向けとして紹介している記事を以前見かけた事もありますが、絵本も児童書も、性別なんて関係なし。
男の子だって、こまったさんは大好きですよー。
こまったさんの不思議体験を自分達も一緒に過ごし、料理作りを自分も手伝っている……気分を味わっているらしく、読むたびに料理について、語りまくり。
ムノ君のセリフは7歳長男が読み上げるのがお決まり。
ポイントアドバイスの箇所になれば、2人で料理のコツを競って列挙。
最後は、自分なら、こまったさんが作った料理のどんなアレンジを食べたいか、延々お喋り。
読んでいるだけで、美味しい料理を食べている気分も味わえる、こまったさんシリーズは、息子達のように食べる事が好きな子供にはたまらない本、みたいです。
この本の影響で、私がカレーを作る時は「玉ねぎをじっくり炒めてよね」「お肉は豚のお肉?」「カレーのルーはちゃんと買ってあるの?」などと、息子達から厳しいチェックが。
小学生や幼稚園児にして既にちょっとした小舅、と化しているのはどうかと思いますけれど……でも、こうやって、料理に興味を持たせる事で、自分で料理をする心のハードルを下げてくれるのは、こまったさんシリーズの素晴らしい長所。
口を出すだけでなく、実際に自分でやってみようと思ってくれるようになったら、嬉しいですね。
今はまだ玉ねぎや人参の皮を剥くなどの簡単な作業しかできない息子達ですが、23歳になったら、私にカレーを作ってくれるそうです。
それは今から楽しみ~!
君達、23歳になっても、その約束を忘れないでね??
まとめ
寺村輝夫さんによる巻末のあとがきにも、ぜひご注目。
寺村輝夫さんは、きっと食べる事が大好きな方だったんでしょうね。
絵本や児童書のあとがき、というよりも、食に関するコラムを読んでいる気分。
食事を通した思い出を大切に語る寺村輝夫さんの言葉からは、食事を人生に欠かせない幸福として考えていたんだろうなあ、と伝わってきます。
平和な日常で美味しい食事を楽しめる幸福、誰かの為に料理を作り共に食卓を囲める幸福。
その当たり前だけれど大切な幸せを多くの子供達に味わってもらう為に、寺村輝夫さんが送り出したのが、こまったさんなのかなあ……なんて、考える訳ですよ。
”おはなし りょうりきょうしつ”、こまったさんから料理だけでなくて、その先の幸せも教えてもらえる料理教室だと思うと、より素敵な本だとは思いませんか?
『こまったさんのカレーライス』を読むと、普段何気なく作って食べているカレーがとっても美味しいご馳走に思えてくるので、カレーの日にはぜひ食べる前に読み聞かせするのをオススメします。
いつものカレーが美味しさ倍増、幸せ倍増しますよー!
作品情報
- 題 名 こまったさんのカレーライス
- 作 者 寺村輝夫(文)・岡本颯子(絵)
- 出版社 あかね書房
- 出版年 1982年
- 税込価格 990円
- ページ数 73ページ
- 我が家で主に読んでいた年齢 5~7歳(小学1年生から特に興味あり)