シュールでおかしな世界観、大人には理解不能でも、なぜか子供には大人気!
ナンセンス絵本の巨匠、長新太さんが贈るキャベツくんシリーズの第1作は、世にも奇妙な絵本の世界の入口です。
勇気を出して飛び込みましょう、レッツゴー!!
簡単なあらすじ
お腹が空いたのでキャベツくんを食べようとするブタヤマさん、自分を食べると何かが起こるよと警告するキャベツくん。
象がキャベツくんを食べると?
ゴリラがキャベツくんを食べると??
ライオンがキャベツクンを食べると???
黄色い空に浮かぶ「もしキャベツくんを食べたら……」の未来予想図。
2人の間にあるのは、果たして友情なのか食欲なのか、どっちなの?
絵本の紹介
まず、主人公キャベツくんがキャベツ人間という辺りがぶっ飛んでますよね。
今の時代ならばそれなりに見かける設定かもしれませんが、これは40年以上前の絵本……当時としては、動物の擬人化はまだしも、野菜の頭部と人間(?)の体を持つ野菜人間タイプの擬人化は少数派です、斬新!
そして、対するは豚人間のブタヤマさん、お腹が空いて友達を食べる気満々……え、それって友達と言える??
そもそもの関係性に疑いありな2人が既にシュール~~。
そして、2人のおかしな会話劇が繰り広げられるのは、長新太さんの太くて伸びやかな線が描く不思議な世界。
目に染みるように強烈な緑とレモンイエローで占められた見開きの広大な空の下に、ポツンと小さく描かれるキャベツ人間と豚人間。
フツーの絵本なら、2人の顔や全身も大きく描くでしょうが、この絵本はページのほとんどが風景、及び「もしキャベツくんを食べたら……」で想定される謎のキャベツ動物達です。
鼻がキャベツになった象。
胴体がキャベツになったゴリラ。
顔がキャベツになったライオン。
空に浮かびあがる彼らの姿に、ブタヤマさんは「ぶきゃっ!」と驚いてひっくり返るも、食欲と未練と好奇心から、キャベツくんに次々と「もし○○がキャベツくんを食べたら……」を質問。
淡々と答えるキャベツくん、懲りないブタヤマさん、ひたすら出てくるキャベツ動物。
なんだろう、段々見慣れたキャベツが訳の分からない謎物体に見えてくる~~!
まともに読むと、大人には何が何だか頭に「?」マークがぐるぐる回る気分になりますが、感受性の塊である子供達には刺さりまくり。
これは想像力と頭の柔らかさが試される絵本ですよ。
もし、自分の体の一部がキャベツになったらどうしますか?
手がキャベツになったら?
お腹がキャベツになったら??
頭がキャベツになったら???
常識的で冷静な大人ならば、「なんでキャベツ?」「キャベツになったから何?」「キャベツになるとか嫌なんだけど」と、意味があるとは思えない問いに困惑するだけかもしれません。
でも、常識の枠にはまっていない子供からすれば、キャベツを巡る可能性が次から次へと積み上げられていき、想像が広がれば広がるほど、腹の底からの笑いが込み上げてきます。
その姿を見ると、子供には大人の常識なんて通用しないんだ、と再認識しますね。
世にも奇妙な絵本の世界、そこに順応できるのは常識に囚われない豊かな想像力の持ち主だけなのです。
こういう「もしも……」の可能性を積み上げる面白さを追求するタイプは、絵本「りんごかもしれない」のヨシタケシンスケさんが有名ですが、長新太さんの不条理さあふれる「もしも……」の世界はまた違った独特の面白さがありますね。
お子さんと一緒に読んで、自分の中の枠をどかーんと壊してみるのもオススメですよ。
散々繰り返された「もし……」の後、 ラストではキャベツくんが自分を捕食しようとしていたはずのブタヤマさんへ、神様のように広い心での優しさを見せます。
でも、それって本当に優しさなのか、食われまいとする自己保身なのか、散々怯えたブタヤマさんへの憐みなのか……結局、この2人の関係性も「何がなんだかわからない」まま。
基本、何の答えも出さない所が、ナンセンス絵本たる証かもしれません。
このキャベツくんシリーズは全5作。
どれもナンセンスという見えない文字がびっちり書かれているような作品ばかりですが、やはりまずこの一番最初の「キャベツくん」を基本として押さえておいてほしいですね。
この絵本さえ読んでおけば、後はどのシリーズを手に取っても、しっかり楽しめるはずですよ。
我が家の読み聞かせ
我が家のちびっ子兄弟には最初から大ウケ!
ナニコレッと言わんばかりにめちゃくちゃハマり、「シリーズを全部読みたいっ」と熱烈リクエストを受けました。
なんでしょうね、「訳が分からない」という事自体が面白くて仕方ないみたいですよ。
「あ~、お腹がキャベツになっちゃった~」
「なんでなんでー!!」
と子供ながらのツッコミを入れながら、げらげら笑う息子達。
ブタヤマさんがブキャッと飛び上がるたびに、いや、ブタヤマさんがお腹空いているというだけでも大笑い。
もう絵本の中身なんてどうでもよくて、ただ笑う事を楽しんでいるのではないかという疑惑が。
我が家の常識人代表たる夫は、自分にとって意味不明なキャベツ絵本で笑い転げる息子達をぽかーんとした顔で見てます……うん、「なにが面白いの??」と戸惑う君の気持ち、私にもわかりますよー。
この笑う様子、ドリフの昔のコント番組再放送を見ていた時と既視感があります。
以前、たまたま録画していたドリフの特集番組をテレビで見ましてね。
7歳&5歳の兄弟にとっては、コント内で喋っている内容を100%理解しているとはとても言い難く、コントの設定もあやふや、わからない事だらけだったはずなのに、興奮して鼻血が出るほど大爆笑していたんですよ。
ドリフのコントが徹底した作り込みとリアリティの追求で成立していた云々の話なんて何も知らない、前知識ゼロの子供目線からだと、ただひたすら「馬鹿馬鹿しい」に特化した番組。
最終的には志村けんさんや加藤茶さんが出てくるだけで笑っちゃう、笑ってる自分達がおかしくて笑っちゃう、条件反射で笑っちゃう、の公式のできあがり~~。
「キャベツくん」と「ドリフのコント」、訳が分からなくても、説明できなくても、おかしくて笑ってしまう、という笑い方が似ています。
「ナンセンス」とは「意味がない事」「馬鹿げた事」を意味する言葉ですが、両者ともに、そのナンセンスに全力投球。
こういう説明を必要としない笑いって、時代も流行も関係ない普遍性を持っているのかも、と息子達を見ていると考えさせられますね。
さすがは、どちらも40年以上前から愛されてきただけの事はあるのかも?
この訳の分からない面白さを心底満喫できる点では、絵本界にて、キャベツくんの右に出る者はいないんじゃないかな……。
まとめ
ユーモアとはなんぞや、笑いとはなんぞや。
「キャベツくん」を読むのに必要なのは、理屈ではありません。
説明できないからこそ、面白いものもあるんです。
難しい事は考えず、まずは頭を空っぽにして読むべし!
作品情報
- 題 名 キャベツくん
- 作 者 長新太
- 出版社 文研出版
- 出版年 1980年
- 税込価格 1,430円
- ページ数 約28ページ
- 我が家で主に読んでいた年齢 3~5歳(常識が身につく前にお読みください)