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絵本『ねずみのおいしゃさま』幼児にもわかるお仕事の大切さ

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小さな子供にとって、大人が働いている、というのはピンと来ないものです。

仕事って何だろう、働くって何だろう。

具体的な理解は追いつかずとも、いつも誰かがどこかで頑張っているんだと心に感じ取るならば、「ねずみのおいしゃさま」を読んでみてはいかがですか?

 

 

 

簡単なあらすじ

雪の夜、急患の子リスの為に、スクーターで往診に出掛けたねずみのお医者さま。

降り積もる大雪に阻まれ、道半ばで立ち往生してしまいます。

困ったな、寒いし動けないし、どうしよう??

あ、あそこに誰かの家があるぞ、助かったー!!

 

絵本の紹介

仕事とは何か、を子供に伝える

雪の降りしきる寒い夜中でも、電話一本で患者の元へスクーターに乗って駆けつけようとするねずみのお医者さま。

「医は仁術」を身を以て表すその姿に感動……と思いきや、まさかの立ち往生、まさかの後悔、そして、まさかのご休憩。

患者の事はすっかり忘れたかのように、雨宿りならぬ雪宿りをさせてもらった家で家主を横目に勝手にくつろぎ、「そこで寝るの!?」と突っ込みたくなるのんびり具合。

ちょっと~、病気の子リスはどうするのよ、このお医者さま大丈夫なの~~~??と思わず苦笑いしてしまうような、実にほのぼのとしたお話です。

 

 

でも、深夜にも皆の為に働く人達が沢山いる事、仕事の大変さと尊さをさりげなく幼児に伝えてくれる素敵なお話でもあるんですよ。

皆が眠っている夜中でも働く看護師、警察官、工事作業員、研究者……例え、夜だろうと大雪だろうと、いついかなる時も必ず誰かが働いている事でこの世の中が回っている、と伝わってくる見開きの絵がいいですね。

ねずみのお医者様だって、途中のご休憩だけ見れば頼りないというか抜けていますけど、苦しむ子リスの為に猛然と飛び出してきた訳ですから。

 

「あなた、こんやは おおゆきですよ。だいじょうぶですか」

「ゆきぐらい なんでもないさ。よなかに でかけるのも、いしゃの しごとだよ」

 (引用元:福音館書店 中川正文・文 山脇百合子・絵「ねずみのおいしゃさま」1974年出版)

 

上のセリフを読めば、例えその後がグダグダでも、ちょっと感心するでしょう?

最後のページにて、往診が徒労に終わり、オマケに風邪まで引いたねずみのお医者さまが誰に愚痴をこぼす事もなく、奥さんと笑いあう姿……部屋の片隅にてほころんだ花の蕾が春を告げているせいでしょうか、思わず心が暖かくなります。

 

 

 

『ぐりとぐら』にそっくりな挿絵

挿絵は『ぐりとぐら』で有名な山脇百合子さんが担当されています。

もちろん、文は別作者による別作品ですから、ぐりとぐらが出てくるべくもないのですが、どう見てもソックリなねずみが主人公なので、子供は気づくと「あーっ!」と大発見したように喜びますよ。

大人側としては、待合室の長椅子や黒くて大きな往診カバン、玄関入り口に敷かれた泥落とし用のたわしマット、レトロな青いスクーター、薬瓶や薬鉢が並ぶ棚、テーブル上に転がるけん玉やキャンディ……昭和の空気を残した診療所を連想させる小物があちらこちらに散りばめられているので、なんとも懐かしいような気持になります。

絵本って、話の筋とは関係のない、こういう細かな描写の積み重ねで、世界に奥行きを持たせられるのが強みですよねえ。

山脇百合子さんの個性が光る小物の数々にぜひご注目!

 

 

父親の読み聞かせに関する先見性

こちら、元々は1957年に永井保さんの絵で月刊「こどものとも」にて刊行された古いお話です。

永井保さんは昭和初期から平成にかけて活躍していらした漫画家・画家でして、昭和の頃には特に絵本を多く手掛けていらした方。

永井さん版の「ねずみのおいしゃさま」は、今から60年以上前とは思えぬカラフルでアニメチックなわかりやすい絵で、山脇さん版の素朴な雰囲気との違いが興味深いですね。

 

で、私が非常に驚いたのは、文作者の中川さんが出している当時のコメントにて、この絵本は父親に読み聞かせをしてほしい、と推奨していたらしい事。

男性であるねずみのお医者様が仕事に出掛ける姿を表現するのは、同じ男性であり働き手でもある父親にぜひ……という意図だったのだと思われますが、育児に関する考え方が今とは異なる60年以上も前に父親の読み聞かせを勧めていらしたとは、柔軟な思考をお持ちだったのだなと感銘を受けます。

それが何年もたってから、山脇百合子さんの絵で再び「こどものとも」に掲載され、更には絵本として出版されて、今我々が手に取る事ができている訳で……。

父親の育児参加が推奨される今の時代、中川さんの願いがより多くの家庭で叶えられるようになったと思うと、なんとなく感無量になりますね。

このコメントの存在を知ってからは、夫がこの絵本を息子達に読み聞かせする姿を見ると、「60年経った今でも、お望みの通り、父子でねずみのお医者さまを楽しんでますよー」と心の中でそっと呟いています。

 

 

我が家の読み聞かせ

我が家のちびっ子兄弟は雪を滅多に見た事がないので、ねずみのお医者さまが雪に降られる場面にわくわく!

雪深い地方にお住まいの方には珍しくも嬉しくもないでしょうが、息子達にとっては雪だるまを作れるほどの雪は憧れの存在なんですよ。

ましてや、この絵本に出てくる雪にすっぽり埋もれた半地下の家だなんて、ロマンの塊です。

ねずみのお医者さまが階段を一段一段降りていく様子を想像して、オリジナルの地下の家をお絵描きしていた事もありますよ。

彼らの描いた家は恐竜が住むトンネルがいっぱいの家でして、中にマグマが湧いているから、雪もへっちゃら!

ねずみのお医者さまが来たら、ぱくっと食べてしまうそう……うーん、絵本が思わぬ惨劇にて途中終了してしまうね、それ……。

息子達の若干スプラッタな絵はともかくとして、雪の寒さ・面白さ・大変さ、そして雪解けの後の春の気配を満喫できるので、2~3月に読むのが特にオススメですよ。

 

 

ちなみに、完全に個人的な話なんですけれども、この絵本を読むと、亡き祖父母から聞いた昔語りを思い出します。

明治の初め頃、私のご先祖様(ひいひいおじいちゃん、だったかな?)には医者がいたらしいのですが、山奥へ往診へ出かけたら、帰り道を覚えている老馬に揺られてウトウトしながら帰ってきたらしいんですよ。

未だ江戸時代に足を半分突っ込んでいるような当時の超ド田舎、その往診先の患者が住んでいたのも山奥の大変貧しい村ですから、お金がない時には代金代わりに焼いたネズミをお昼に出されたとか……いやはや、時代を感じますねー。

多少話を盛っているのでは……と疑った事もありますが、時代が違うとは人の考えも行動も違うのだと心底感じるエピソード(時にはドン引きレベル)を他にもわんさか聞いたので、多分本当にあったと思われます。

盛るなら、もっと他に盛りようがあるはずかな、と。

さて、そのご先祖様エピソードが頭にあるせいか、私は読み聞かせする度に「お医者さん、居眠り、ねずみ……!」と脳内にキーワードがぐるぐる。

息子達が大きくなったら、「君達のひいひいひいひいおじいちゃんはね……」と話そうかなー。

そうして、いつか息子達が大人になっって、この絵本に再会した時には、私と同じように「お医者さん、居眠り、ねずみ……!」とぐるぐる連想してたら面白いな、なんて企んでます。
 

 

まとめ

 のんびりゆったりした時間の中で暮らすねずみのお医者さま。

でも、その心は患者さんを救う為に一生懸命。

きっと、現実の医療関係者の皆様も、今目の前にいる患者さんを助ける為に、朝昼夜問わず、邁進しているのでしょう。

そして、それは医療関係者のみならず、この世の全ての働く人に通じる話。

いつも誰かがそれぞれにできる事を懸命に働いているからこそ、私達の社会は成り立っている……子供にそんな理解まで求めるのは早計ですが、それでも肌で感じ取ってくれたらいいですね。

 

 

作品情報

  • 題 名  ねずみのおいしゃさま
  • 作 者  中川正文(文)・山脇百合子(絵)
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  1977年
  • 税込価格 990円
  • ページ数 28ページ
  • 我が家で主に読んでいた年齢 3~5歳(冬の終わりに読むのがオススメ)