数ある三びきのこぶた絵本の中でも、イギリスの原典に忠実なのは、こちら!
完成度と芸術性において、他のこぶたの追随を許さぬ傑作です。
出版から半世紀以上経つにも関わらず、一切色褪せず、見劣りもせず、こぶたの頂点に君臨し続けるこの素晴らしい絵本は幼稚園児必見。
三びきのこぶた絵本界の絶対エース、とも言うべきロングセラー『三びきのこぶた』をぜひお見逃しなく!
簡単なあらすじ
貧乏なお母さん豚から自立を促されたこぶた3兄弟。
1番目のこぶたは藁の家、2番目のこぶたは枝の家を作りますが、狼の襲撃を防げずにぱくっと食べられてしまいます。
残る3番目のこぶたが作ったのは、狼でも歯が立たない頑丈なレンガの家。
こぶたを食べたい狼VS狼に食べられたくないこぶた、駆け引きの行方は?
絵本の紹介
文も絵も一級品!
元々はヨーロッパにに伝わる民間伝承で、18世紀後半よりも前に存在していたのではないかと推測されている古い昔話です。
話の内容に関しては、既に皆様ご存じでしょうから、細かく触れるまでもないでしょう。
上記のあらすじ通り、この絵本は王道まっしぐらの「三びきのこぶた」の童話。
最後は狼を鍋で茹でて、きっちりクッキングする辺りまで、抜かりはありません。
しかし、決してありふれた童話絵本に終わらせていないのには、傑出した文と絵の素晴らしさにあります。
文章を書いたのは、子供向けにわかりやすい言葉を使いつつも、日本語の美しさと格調高さを持ち味とする瀬田貞二さん。
易しい言葉遣いの中にも、文学の香りを漂わせる瀬田貞二さんの文章は、黙読と音読のどちらであろうと、目にも耳にも心地よいのですよね。
こぶたと狼のセリフの掛け合いが生む軽妙なリズム感なんて、特に楽しんでほしいポイント。
丁寧な語り口にも関わらず、虎視眈々と機会を狙う狼の猫なで声の胡散臭さ、こぶたの頭をフル回転させながらピンチを切り抜けようとする緊張感を感じさせ、お互いを何とか出し抜こうとする心の動きを捉えています。
この心の機微を汲み取れるようになれば、子供の言語理解が深まった証拠。
ぜひ子供に読ませてあげたい、童話のお手本のような文章です。
そして、絵が素晴らしい!!
皮膚の下の筋肉の動きまで感じ取れそうな躍動感溢れるこぶたボディ。
手のひらに硬い手触りの錯覚を覚えそうな狼の毛並み。
動物の骨格、筋肉の付き方、生態などに対する非常に高い観察力、深い理解に基づく写実性が飛びぬけています。
それでいて、童話としてストーリーと絵をマッチさせる力も高い!
動物に服を着せる事無く、リアルと擬人化のギリギリの線を攻める、こぶたとおおかみの表情の豊かさは、動物画を描く手腕、更に童話の物語世界への解釈も優れていなければ描けないものです。
人間の手とは違う、ひづめの描き方に感情表現を感じるなんて、滅多にない体験ですよ。
悪のメタファーとして描かれる狼の人物像(狼像?)にも深みがあります。
いや~~、お見事ですね~~~。
この絵を描いた山田三郎さんは動物画に定評があった方だそうですよ。
なるほど、納得納得……しかし、素晴らしいのは動物だけではありません。
人間の服装やこぶた達の家、室内の道具一式なども、細部まで練りこまれた描きこみがされており、物語世界の完成度をこれでもかと高めています。
圧巻なのはお祭りの場面。
とんがり帽子や仮面を身につけた人々や売り子の声で賑わう屋台が押し合いへし合いする中、くるくる回る回転木馬に跨るこぶたが違和感なく溶け込む情景はまさに異国のカーニバル、熱気と喧騒に満ちた非日常感には心が浮き立ちます。
こぶたとおおかみが暮らす文化圏までを想像させる、この独特な世界観の魅力は、他の三びきのこぶた絵本にはまず見られない個性ですね。
昔話や民話を絵本にするのは、実は難しいです(その難しさについては、過去記事『だいくとおにろく』でも触れています)。
既に題材が決まっているなら楽と思ったら、大間違い!
誰もが知っている材料を皆の期待に応えつつ、自分の個性を生かして独自性を出す……絵本ではない他のジャンルでも、難しいミッションですよ。
しかしながら、この絵本はその困難を乗り越え、文章では描いていない物語の奥行きをこれ以上ない形で出している……私が冒頭にて「三びきのこぶた絵本界の絶対エース」と読んだのも、この唯一無二の個性ゆえです。
うーん、この絵本を読まないなんて、絶対損してます、ぜひ読みましょう!
絵本の改変について
三びきのこぶたに付きまとう現代ならではの問題……それは、物語の改変でしょう。
運動会は皆が1位じゃないと可哀そうだし不平等、という考えが出てきた現代では、「みんな仲良く」を求めがち。
絵本でも往々にして、昔話の残酷な部分や理不尽な部分が大幅に改変されている……というのは、皆様お聞き及びでしょう。
私も出産前には本当にそんな事あるのかなと思っていましたので、改変された絵本を目にした時は驚きました。
三びきのこぶたの場合、こぶた3兄弟はみんな生きているし、狼も殺されないし食べられない、むしろ仲良く暮らす、って所でしょうね。
お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、私は昔話の改変には反対派です。
みんな仲良くなんて○○○○○!と思わず伏字にせざるを得ない文句を出したくなる程度には反対ですね。
狼を鍋で煮殺して食べてしまうくだりは、人によって確かに残酷に思うかもしれませんが、昔話の残酷さや不条理さ、猥雑さは、その土地の歴史や文化、社会そのものが土壌となって産み出したものです。
社会の数%に過ぎない、教養溢れる上層階級が優雅に筆を執った文学作品ではなく、その他大勢の、教養も識字率も低かった市井の人々が受け継いできた口頭伝承、それが昔話。
現代には名前も残っていない一般の人々が、日々を暮らして生きてきた中での様々な経験や知恵、悲喜こもごもが映し出され、形を変えて現代に伝わっているのが昔話であり、残酷さも理不尽さも猥雑さも、その人々が生きてきた現実を構成していた要素です。
それをなかった事にするって……ただ、臭い物に蓋をしているだけなのでは……。
更に言えば、昔話は基本口承、口伝えです。
皆様、伝言ゲームをした経験があれば、情報や話を口伝えしていく難しさは多少なりとも想像できるのではないですか?
少ない人数の伝言ゲームでも難しいのに、正確な情報を残せる記録媒体「文字」無しに、後世へ情報を伝達する事の難しさ……ちょっと想像すればおわかり頂けるでしょう。
その困難を乗り越えて、今も伝わっている昔話を安易に改変するのは、過去の否定、過去から繋がっている今の自分達自身の否定ではないのかな、と私は思ってしまうんですよ。
喰うもの喰われるものもみんな仲良く、と口にできるだけの余裕が社会にできたのは、平和を享受できている証として、ありがたい事かもしれません。
でも、昔話を簡単に変えてしまうのではなく、昔話から今を生きる自分が何を汲み出すのか、子供が自分なりに考えて判断するようになって欲しい!
昔話はかつての教訓や学びを伝えるだけでなく、今と昔で生じる差異を自分の頭で考える目的でも有用です。
ですから、私は変わらぬ姿の『三びきのこぶた』を支持したいですね。
あくまで、私個人の意見ですよ?
もしかしたら、改変した昔話がスタンダードになって、100年後200年後に残されている可能性もあります。
なにしろ、昔話は少しずつ口承されていく内に変化していくものですから。
未来の「三びきのこぶた」は、どんな形になっているんでしょうか、気になりますっ。
我が家の読み聞かせ
我が家の息子達、3歳頃から幼稚園年中まで、こぶたの家を狼が訪ねてくるごっこ遊びが大好き!
公園でも、家でも、こぶたの家に見立てた場所に立てこもり、自分達こぶたを狼である私がふーふー吹き飛ばして食べてしまおうっ、というのが楽しかったらしく、よくリクエストされていましたよ。
一時はお風呂に入る前にひとしきり三びきのこぶたごっこをしないと、おとなしく服を脱いでくれず……お陰様で「おらおら、こぶたども、食っちまうぞー!」と脱衣所へ追い立てる腕が上がりました。
小学2年生及び幼稚園年長になった時点では、三びきのこぶたごっこ遊びをする頻度は激減しましたが、代わりに、狼が家を吹き飛ばす「ふうふうのふうっ」は、いつも実際にふーっと息子達の頭に息を吹きかけて読むのを楽しんでいます。
2人ともニヤニヤしながら、その瞬間を待ちわびて、ふーっとされれば「うわぁ!」と叫びながら転がる事も。
もう何十回何百回と読んでいますが、親子共に飽きずに楽しめるのは、さすが昔から愛されるお話なだけありますね。
ちなみに、息子達、狼がこぶたを食べてしまう場面については、肉食である狼がこぶたを食べるのは自然の摂理だと納得しているらしく、基本何の文句も言いません。
なにしろ、この絵本を読む前に図鑑やテレビの生き物番組で、弱肉強食の知識は簡単に身につけていましたので、精々「あーあ、食べられちゃった~」と残念がるだけ。
自分達も食卓でトンカツやポークソテーを食べていて、それが豚肉だと知った時は、「これ、こぶたなの!?」とひと騒ぎしていましたが、生き物は食べなければお腹が空くし生きられない、とすぐに納得。
絵本の残酷さが子供に影響するかどうかは、私は専門家ではありませんので、正しい評価はできません。
でも、現実と架空を切り分けて楽しむのが絵本ですから、息子達はその点を割り切っているようです。
まとめ
私も幼稚園の頃に読んでいた『三びきのこぶた』、ごく普通の絵本だと思っていましたが、息子達への読み聞かせをきっかけに、いくつもの美点へ気づく事ができました。
長年当たり前だと思っていた存在の良さに気付く……恋愛ドラマだったら、恋に落ちているかもしれない展開ですね~。
実際、私は改めてこの絵本に惚れ込んで、こうやってブログに書いている訳ですけど。
読み聞かせって、子供だけでなく、親にとっても発見が多くて面白いですね。
昔ながらの『三びきのこぶた』、どうぞお子さんと一緒に「ふうふうのふうっ」と読んでみて下さいっ。
作品情報
- 題 名 三びきのこぶた
- 作 者 瀬田貞二(文)・山田三郎(絵)
- 出版社 福音館書店
- 出版年 1967年
- 税込価格 990円円
- ページ数 20ページ
- 対象年齢 3歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 3~5歳(幼稚園年少から集中して読めるようになりました)