野菜がテーマの絵本は沢山ありますが、その中でも柳原良平さんのユーモアとセンスがピカピカ光る個性的な1冊。
幼児向けの野菜絵本を揃えるなら、ぜひ、こちらもリストに入れてほしいですね。
なぜなら、この「やさいだいすき」、ただ野菜を描いているだけではありません。
野菜以外にも幼児が色々な学びを見出せる、とってもお得な1冊なんですよー!
簡単なあらすじ
ページをめくれば、人参・大根・胡瓜・南瓜・玉ねぎ……どこの家の食卓にも並ぶであろうお馴染みの野菜が次々に登場!
お店に行って野菜を探そう、家へ帰れば、野菜は美味しい料理に変身!
野菜を食べれば元気になるぞ~~。
絵本の紹介
意外にも知育絵本だった!
18種類の野菜がユーモラスな表情を浮かべて、こちらを見つめてきます。
なんとも親しみやすくて、可愛らしいですねー。
しかし、この絵本、単に野菜を描くだけでは終わりませんよ。
- 黄色・緑・紫などの基本的な色。
- 1~3までの簡単な数字。
- 「ひとつ」「1ほん」などの、数を数える時の単位。
- 野菜それぞれの「丸い」「細い」などの形状の表現。
ただ絵本を読み上げているだけで、幼児がごく自然にこれらの概念も学べる仕組みになっています。
たった1冊の野菜絵本なのに、野菜以外の学べる要素の多さに気付いた時は「良く出来てるなあ!」と心底感心しました。
学べる要素はこれだけじゃありません!
最後には出てきた野菜を料理してもらって、ぱくぱく食べる男の子。
野菜を羅列するのみに終わらず、「買い物→料理→食事」までの流れをきちんと描写してあるので、食育の一環としても向いています。
低年齢の幼児は、お店に並んでいる野菜といつも食べている野菜が同じモノと理解していない事が多いんですよね。
それぞれの存在はわかっていても、関係性がまだ頭の中で繋がりにくいのは、知識も経験も浅くて、知らない事ばかりの幼児にとっては仕方がありません。
でも、この絵本を読めば、野菜と料理の関係性を話の流れの中で学ぶ事ができるので、「あ、いつも食べてるご飯はこの野菜からできてるんだ!」という気付きをもたらしてくれます。
これぞ、食育の初めの一歩!
センスとテクニックが凄すぎる!
絵に着目してみても、その洗練されたセンスとテクニックには驚きの連続です。
シンプルに無駄を全てそぎ落として、対象である野菜の要素を強調・デフォルメした絵のわかりやすさと独創性。
野菜は切絵になっていまして、使われている紙の和紙っぽい質感がアクセントになっており、単色の塗りにありがちなのっぺり感を打ち消して、野菜それぞれの質感をうまく表現してあります。
野菜には全て顔がついていまして、野菜が3個の時は男性・女性・子供を連想させるようにそれぞれ違う顔立ちが描かれているのも、うまいですよ。
目も鼻も口も、男性・女性・子供それぞれの描写を変えてありまして、特に女性はルネサンス期の画家ラファエロが描く聖母像にも似たまぶたをしており、その伏せられたまぶたと頬に影を落とすまつげが母性を感じさせるんです。
ほんのわずかの描写の差異で、違いを演出してみせるとは……!
他にも野菜に顔を描く効果として、乳幼児は人間の顔に強く興味を示す傾向がありますから、描かれている野菜へ興味を引く事ができますし、数を数えるのにも識別しやすいメリットもありますね。
野菜の色を引き立てる独自の色彩感覚にも舌を巻きますよ~、この絵本、白をほとんど使っていないんです。
白が使われているのは、精々が大根、目の白目部分、食器くらい。
私のような凡人は、野菜の色を美しく見せるなら、つい引き立て役として白い背景を多用してしまいそうなものですが、この絵本に白い背景など皆無。
全ての背景、全てのページが鮮やかな色彩に溢れていて、とってもオシャレ、野菜が堂々と存在感を主張しているのです。
この配色センス、素晴らしいっ!!!
更に付け加えれば、文章も声に出すとわかるのですが、幼児への数え歌のようなリズムがあり、とても読みやすいです。
作者は何者?
いや~、元々評判が良いと聞いて購入はしたものの、ただの野菜絵本と思って読んでみたら、この工夫の多さと質の高さ、乳幼児の性質への深い理解……すごい~~。
一体この絵本を描いた作者さんはどなたなのかしら、と調べてみたら、有名なイラストレーターの柳原良平さんでした。
柳原良平さんと言えば、ウイスキーのイラスト、アンクルトリスでお馴染み!
この名前に心当たりのない方も、こちらの絵に描かれたダンディな紳士を見れば「あっ!」となるのではないでしょうか。
アンクルトリスを1958年に生み出し、イラストレーターの先駆けとして、漫画家やアニメ作家などとして、第一線で50年以上活躍してこられた方ですね。
その柳原良平さん、子供達の為に絵本を何冊も出版、特に赤ちゃんや低年齢の幼児を対象とした作品を得意としていらしたようです。
イラストで人の心を長年掴んできた経験を存分に活かし、絵本でも赤ちゃんや幼児の心を鷲掴みしたという訳で……なるほど、そりゃ納得!
何がすごいって、この絵本は2004年初版、柳原良平さんが73歳頃の出版なんですよー。
自分が73歳になった時、これほど子供の心をぐわしっと掴むような素晴らしい絵本を作れるだろうかと、思わず自問自答。
同時に、創作活動には年齢など関係ないのだ、と敬服いたしますね。
我が家の読み聞かせ
我が家のちびっ子兄弟、1〜3歳頃には頻繁に読んでましたよ。
野菜絵本の中でも特にお気に入りで、読み聞かせリクエストも多かったです。
「この野菜の名前はなーんだ?」
「これ、何色か、わかる人ー?」
「じゃがいも、何個あるかな?」
と、いろんな質問をしながら、一緒にわいわいと読み返すのは楽しかったですね~。
ラストには、それまで出てきた野菜が一堂に並ぶページがあるのですが、どの野菜が一番好きか、どの野菜なら食べられるか、などを兄弟で競って指差しするのも、よくやっていました。
子供にとって、絵本を静かに黙って聞くよりも、一緒にコミュニケーションを取りながら読む方が楽しいし、自分の意見も言えるようになるのではないか、と私は考えているので、その点でもこの絵本はとても活用しやすかったです。
幼稚園年少の頃には、お料理の場面を読むと、「ぼくたちのうちでも、おかあさんがいつもおやさいをりょうりしてくれてるんだね!すごいね!」と兄弟で一丁前にも感謝の念を表明してくれました。
うーん、その割に普段の食卓では野菜食べるのを嫌な顔してましたけどね……。
そんな嫌いな野菜も、「野菜を食べなきゃ元気になれない!」「野菜大好き!」と兄弟で互いに掛け声をかけてあって完食。
そう、「野菜大好き!」の方の掛け声は、こちらの絵本のタイトルより拝借しました。
現在7歳と5歳の息子達、年齢的にもこの絵本を読む事はめっきり減りましたが、その影響力は今もなお絶大で、掛け声も依然として現役です。
まとめ
この絵本を読んで、一流の仕事とはこういう事か、と思わず唸る大人は私だけではないはず……。
もちろん、ネームバリュー抜きでも、本当に素晴らしい絵本なんですよ!!
実際、私も最初は作者が柳原良平さんだとは気づかず、「これ、工夫がいっぱい凝らしてあって、とってもいい絵本だな~、子供ウケもすごくいいし、この人の絵本は他にあったら欲しい!」と検索してみて、初めて「あっ、トリスの人だ!」と気づいたんですから。
そもそも、子供にはそんな大人の事情なんて関係ないですしね。
我が家の息子達も、ただシンプルに、この絵本が大好きでした。
柳原良平さんに興味がある方もない方も、ぜひ1度は読んでみて下さい。
本当によくできた絵本なので、きっとお子さんのお役に立ちますよ。
作品情報
- 題 名 やさいだいすき
- 作 者 柳原良平
- 出版社 こぐま社
- 出版年 2004年
- 税込価格 990円
- ページ数 24ページ
- 我が家で主に読んでいた年齢 1~3歳(息子達は1歳誕生日後くらいから興味を強く持つようになりました)