一種の性教育絵本ですが、防犯に特化!
子供に性被害や誘拐から身を守る方法を教えてくれる防犯絵本です。
元々、日本よりも犯罪発生率が高い国アメリカにて描かれただけあって、子供向けながらも危機意識への警鐘を鳴らす作りになっていますよ。
残念な事ですが、どこの国にも子供がターゲットの犯罪があるのは紛れもない事実。
子供を狙う犯罪は絶対に許せないし、子供を守るのは親や周りの大人の役目です。
でも、犯罪を未然に防ぐ為には、子供自身にも身を守る知識を身に付けておいて欲しい……そんな時に役に立つこの絵本は、まさにサブタイトル通り、「わるい人から身をまもる本」。
公園やデパート、自宅など、場面を様々に変えて、知らない人、知っている人問わず、嫌な気持ちになる事をしてくる人がいたら?と子供へ意識づけてくれます。
男女問わず、読んでみてほしいですね。
題名を覚えるだけでもOK、とにかく叫んで逃げましょう!
簡単なあらすじ
性被害や誘拐へ繋がる身近な危険を「ぼく」「わたし」の視点で描くオムニバス形式。
各エピソードの長さは4~6ページ程度です。
描かれるエピソードは以下の6つ。
- デパートでお母さんとはぐれて迷子になった時
- 公園で知らない人に「車で一緒に行こう」と話しかけられた時
- 自宅マンションの廊下で、顔見知りの人に身体を触られそうになった時
- 旅先のホテルで、知らない人の部屋に引っ張り込まれそうになった時
- 行方不明の子供のニュースを見て、お父さんに質問した時
- 友達が親戚のおじさんに「わるいゲーム」をされたと話した時
絵本の紹介
子供と大人、それぞれへのメッセージ
性被害や誘拐について、作中に性的な用語や直接的な暴力をふるう場面はありません。
ただし、表現をマイルドにしているだけで、シチュエーションはかなり具体的。
文章では、車や部屋の中に連れ込もうとする・体を触ってくる・服を脱いでいやなゲームをする、という表現をしています。
絵では、女の子の首に回った手のアップ、男の子を抱き上げようとする男性、裸で立つ女の子、などの描写。
これらが組み合わさると、なかなかに不穏な雰囲気……読み聞かせている大人としてはドキリとする事もあります。
小さな子供にとっては、性被害も誘拐も理解の範疇外。
それぞれのエピソードで何が起こっているのか、なぜそんな事をしてくる大人がいるのか、理解に苦しむかもしれませんね。
けれど、性被害とは何ぞや、とわかっていなくても、自分の身体を大事にしなければいけない事は幼児でもちゃんと理解できます。
読んでいて嫌な感じがする、良くない事が起こりそう……と、危険を漠然とでも感じ取ってもらえれば、まずは充分。
絵本では、嫌な感じ=危険からどう自分の身を守るか、を教える事に焦点を当てています。
6つのエピソードに一貫している、子供への基本的なメッセージは、以下の7点です。
- 知らない人とは話してはいけない。
- 知らない人にはついていかない(知っている人にもついていかない)。
- 自分の身体は自分だけの大切なもの、誰も勝手に触ってはいけない。
- 嫌な事をされたら、「いやだ」と言う権利がある。
- 嫌な事をされたら、すぐに叫んで逃げる。
- 嫌な事をされたら、お父さんお母さんなど信頼できる人へすぐに話す。
- 嫌な事をされても、君は絶対に何も悪くない。悪いのは嫌な事をした相手だけ。
同時に、大人に対しても、子供を守る為に、5点のメッセージを読み取れます。
- 外出時、子供からは目を離さない。
- 子供の話を遮らず、冷静に最後まで聞く。
- 被害に遭った場合、子供を絶対に責めない
- 被害に遭った場合、子供の信頼できる味方として守る姿勢を見せる。
- 日常的に子供と防犯の話し合いをする
私が読み取れたメッセージは以上ですが、もしかしら、他にもあるかも?
何にせよ、どのメッセージにも一貫した方針がありますね。
性被害や誘拐に子供を遭わせない。
万が一、性被害や誘拐に遭ったとしても、子供の心と身体を必ず守る。
この2つの方針をエピソードの中で徹底的に繰り返し、読んでいる子供にも、読み聞かせている大人にも注意喚起となる仕組みになっています。
この絵本を読めば、何が危ないのか、何をした方が良いのか、子供にもわかりやすく教えてもらえますよ。
アメリカ生まれの絵本の背景
内容的に、日本の絵本にしては描写が少々生々しい……と思ったら、元はアメリカの教育家であるベティー・ボガホールドさんが描いた絵本なんですよ。
アメリカは人口比率に対する犯罪件数が日本より遥かに多く、比例して子供の性被害や誘拐の件数も非常に多いです。
日米比較した統計などを見ると、背筋がヒヤリとするレベル……。
その状況に加えて、元々自分の身は自分で守るという意識が強いお国柄もあり、その分、子供自身にも自衛するように教える考えも浸透しているのでしょう。
その状況のアメリカの子供達の為の絵本ですから、場面ごとの設定もかなりリアル。
ここはアメリカと日本の文化的な差異を感じる部分ですね。
でも、あくまでも対象年齢は幼稚園~小学校低学年程度。
子供にとってのわかりやすさ・年齢相応の知識への配慮・防犯への教えのバランスをぎりぎりで取っている為、際どくはあっても、性知識なしで読めるようになっています。
一番ぎりぎりの表現と思える「いやなゲーム」も、その内容については明言されていないんですよ。
どこまで踏み込むかは難しい問題ですが、対象年齢的にはレクチャーとしての役割を充分果たせる内容ですね。
河原まり子さん描く、ぼかしが効いた優しい色合いの絵が話の印象を和らげているのも、効果的。
怖い場面は色使いもそれなりに暗めですが、安心できる場面は温もりのある色使い。
子供のお絵描きのようなタッチを採用しているので、あまり肩の力を入れずに済み、読みやすいですよ。
巻末には作者・訳者それぞれのあとがきがあり、性被害や誘拐に関する情報及び考え方が述べられています。
アメリカでは35年以上前、日本では20年以上前に出版された絵本ですから、あとがきの情報内容は古くなっているものの、考え方は今でも基本的に変わりません。
国が違っても、子供を守る思いは一緒。
大人として、親として、社会の宝であり家族の宝である子供達をどう守っていくのか。
被害に遭ってしまった時、子供の心をどうケアしていくのか。
非常に考えさせられる内容になっていますので、ぜひご一読ください。
性被害も誘拐も、自分には関係ない?
抵抗する術を持たぬ子供を狙い、その命や尊厳を損ない、人生を根こそぎ変えてしまいかねない性被害や誘拐は、卑劣極まりない、絶対許せない犯罪です。
……でも、皆、どこかで「自分は大丈夫、自分の子供は大丈夫」と思っていませんか?
性被害や誘拐なんて、自分には関係ない、自分の子供にも関係ない、これからも日常が続いていく。
でも、現実は時として非情です。
性被害には、性別も関係なく、年齢も関係なく、時間も場所も関係ありません。
子供を狙う「悪い人」は全く知らない人ばかりではありません。
大変悲しい事に、子供にとっての顔見知り、よく知っている人も多いのです。
更に、性被害の内容も、ネットやSNSでの写真データ拡散など、小さな子供にとっては何が危険なのかを判断しにくい部分が増える一方。
「ちょっと写真を1枚撮らせてね~」と言われて頷いてしまうなど、子供自身が被害を受けている時点で何が起きているかを理解しておらず、後になって気づく例も多いですよね。
実際には、子供のすぐ身近に潜んでいる犯罪、それが性被害です。
児童の略取・誘拐については、警察庁や検察庁の統計を見て見ると、日本での年間発生件数はこの10年で大体数十件程度で、この絵本が出版されたアメリカと比べれば、桁違いに少ない数字です。
でも、数字の下には1人1人の生きた子供がいる……「数十件しか」ではなく、「数十件も」起きているのですよ。
しかも、詳しい内情は様々ですが、誘拐は時に命の危険すら伴います。
子供を誘拐なんていう危険な目には絶対に遭わせたくない、と誰もが思っているでしょうに、年間数十人も巻き込まれている事実には、ゾッとしますね。
これらの犯罪の被害に遭わないようにどうすればよいのでしょう。
運を天に任せて、「うちには関係ない」と決め込んで大丈夫ですか?
大人が見守っていれば充分ですか?
でも、性被害も誘拐も「運が悪かったね」で済ませられるような事ではありません。
日々成長していく子供を24時間365日付きっきりで守るのも不可能です。
大人が子供を守るのは当然としても、子供にも自分の身を守る意識、それに防犯の為の知識を身につけてもらわなければ、結局片手落ちなんですよね。
それらの意識と知識を教えるのも、子供の為にしなければならない、大人の大切な務め。
「身を守る」とはどうすれば良いのか、どういう時が「身を守らなければいけない時」なのか、被害に遭ってしまったらどうすれば良いのか……この絵本は小さな子供にもわかりやすく例示してくれますよ。
なお、この絵本の防犯は、性被害という「性」が絡む犯罪に基づいている為、小さな子供へ性に関する話をするのは抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。
そのお気持ち、私にも重々わかります。
しかし、子供の健やかな心と体を守るのも大切。
この絵本は「性」のレクチャーではなく、身の安全をどう守るかに重点を置いていますので、最初から切り捨てるのではなく、選択肢として一考する価値はあると思います。
ちなみに、性教育の絵本及び私の考え方につきましては、他記事でも紹介しています。
もし、興味をお持ちでしたら、ご一読くださいね。
唯一の欠点
防犯絵本としてはよくできた絵本ですが、ひとつ気になる点が……。
3番目のエピソードにて体を触ってくる「悪い人」に、「そうじのおじさん」と職業を特定する表現をしているんですよ。
絵では職業を特定する描写はしていませんが、読んでいて、あまりいい気持ちはしません。
具体的な職業を出して、子供へマイナスイメージを植え付ける必要があったかな?
原本を目にした訳ではないので、これがそのまま原文を訳したのかどうかは、不明。
子供にとって身近な職業の人でも危険な事がある、と言いたいのかもしれませんが、幼児への注意喚起を目的とした絵本としては、適切ではないように思えます。
デリケートな内容だけに、職業付けをせずに表現をすれば良かったのに……。
そこだけは、何度読んでも、ちょっと残念です。
我が家の読み聞かせ
我が家の息子達は来年小学3年生と1年生になります。
小学校へは個別登校する地域に住んでいる為、自力で登下校しなければなりません。
年齢と共に、友達の家へ遊びに行く機会、外へ子供だけで遊ぶ機会も増える小学生。
つまり、これから私の目が届かない部分がどんどん増えてくる訳で……親としては心配の種が尽きません。
心配し過ぎと思いますか?
でも、私はそうは思いません。
以前、昔からの友人達と小学生の頃の思い出話をしていた時、友人達からは「当時は気づかなかったけれど、今思えば……」というエピソードがいくつも出てきました。
自宅前で痴漢に遭ったり、学校帰りに不審者に付きまとわれたり、公園で待ち伏せされていたり……。
どの話にも共通していたのは、本人達は親を含む大人に話していなかったという事。
友人達は、それが何を意味しているのかを当時理解しておらず、大人にわざわざ話す必要があるとも思っていなかったそうです。
自分自身も振り返れば、友達と遊ぶ公園に「変な人」がいても珍獣扱いで笑っていただけでしたっけ……。
日本は海外と比べて、治安は良いですが、今も昔も一定数の「子供を狙う悪い人」はいるのですよね。
ただ、それに気づくか気づかないだけ……気づかずにそのまま被害に遭ってしまえば、取り返しのつかない事態へと至るかもしれないのです。
そんな事態を防ぐ為にも、子供には身を守る方法をちゃんと知っておいてもらわなければ!
息子達を万が一の「一」にしない為にも、この絵本を長男5歳・次男3歳頃から読み聞かせしています。
おかげで2人とも、「知らない人とは話さないし、ついていかない」「お父さんお母さんがいない時は車に乗らない」「少しでも変だと思ったらすぐ逃げる」は知識として身についていますよ。
まあ、それをきちんと実践できるかは怪しいものですが、知識として頭の片隅にあるだけでもマシかな~?
少々警戒し過ぎかとも思いますが、学区内での不審者情報が頻繁に入ってくるものですから、その詳細を読むと、やはり警戒心が強いに越した事はないと確信しますね。
「性被害なんて、うちは男の子だから関係ない」とか考えてはダメ!
性被害は、男女の違いなど関係なく起こり得ます。
むしろ、男の子が性被害に遭ってしまうと、女性よりも相談する受け皿が整っておらずに、長い期間に渡って苦しい思いをする可能性もあるのですから。
我が家では、息子達が成長して、適切な状況判断ができるようになるまでは、まず「自分の身を守る」を徹底させるつもりです。
まとめ
人には親切にしてほしい、優しくしてほしい……人を信じる事を教える一方で、人を疑う事も教えなければいけない矛盾は難しいですね。
けれど、無知が何を招くか……。
何もないならそれでいい、けれど備えはしておいた方がいい。
防災と一緒で、常日頃の準備は怠らずにいる事が結局子供の安全を守り、犯罪と無縁でいる事で人を信じて生きていける日常を守るのではないでしょうか。
矛盾の解消はできずとも、バランスを取ってはいけるはず。
この絵本を読み、子供と一緒に防犯の話をして、人との信頼関係を築きながら身を守っていければ、理想的ですね。
なお、これまでの文中にて、防犯や性教育に関する私の考えを述べていますが、各家庭によって方針が異なるのは当然です。
子供の教育に正解はありませんから、子供にどう教えていくかはそれぞれ自由。
その上で、もし防犯に興味をお持ちでしたら、『とにかくさけんでにげるんだ』はきっと力になってくれる絵本ですよ。
作品情報
- 題 名 とにかくさけんでにげるんだ わるい人から身をまもる本
- 作 者 ベティー・ボガホールド(作)・安藤由紀(訳)・河原まり子(絵)
- 出版社 岩崎書店
- 出版年 1999年
- 税込価格 1,430円
- ページ数 32ページ
- 対象年齢 3歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 5~7歳(3歳には文章量が多いかも……)