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児童書『ロボット・カミイ』集団生活における子供の成長を描く1冊

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小学校低学年における絵本から児童書への過渡期にぜひ読んでほしい作品のひとつが『ロボット・カミイ』。

全92ページとボリュームはありますが、幼稚園が舞台ですから、幼稚園や保育園の年中さんからでも読み聞かせを楽しめますよ。

わがまま・泣き虫・いばりん坊の三拍子が揃ったロボット・カミイが巻き起こすドタバタ劇、そして最後は大人も思わずホロリとする成長物語。

集団生活を学べる幼年童話の名作、ぜひお見逃しなく!

 

 

 

簡単なあらすじ

たけしとようこが段ボールでロボットを作ったら、いきなり動き出して、自分の名前はカミイ、鋼鉄製のロボットだ、と名乗ります。

このロボット・カミイが大変な問題児!

小さな子の象のぬいぐるみを取り上げるわ、砂場で喧嘩するわ、幼稚園の劇をぶち壊すわ、トラブルに続くトラブルの連続。

たけしとようこは気が休まる時がありません。

カミイが次に起こす問題は一体何!?

 

絵本の紹介

わがままカミイから学ぶ事

自分を鋼鉄製のロボットだと言い張るだけあって、足も速ければ、力も強いカミイ。

けれど、中身は小さな子供同然です。

たけしとようこの通う幼稚園のもも組クラスへ遊びに行けば、天真爛漫というよりも傍若無人な行動のせいで、もも組の子供達とはトラブル続き。

人のモノを取ったり壊したりは序の口、いたずらもするし、手が出る事もしばしば。

都合が悪くなれば、自分が悪かった点は棚に上げて、すぐにワアワア泣くのも、これまた厄介なんですよね~。

なにしろ、本人は鋼鉄製だと主張していますが、実際のカミイの体は段ボール製ですから、水にはとても弱くて、濡れれば身体がふにゃふにゃ。

そこへ、カミイの流す涙がビー玉みたいな大粒なものですから、そのまま泣かせておけば、カミイは水で体がダメになってしまう……!

 

たけしとようこは、カミイが涙でふにゃふにゃにならないように宥めすかす一方で、迷惑をかけたもも組の子達へカミイの代わりに頭を下げ、気苦労が絶えません。

頻発するトラブルの尻拭いをする2人の横で、当のカミイは平然とした顔しているんですから、もはや、保護者と園児の構図。

たけしとようこだって、まだ幼稚園児なんですけど……ついには2人の堪忍袋の緒だって切れてしまいます。

数々のトラブルを経て、カミイはもも組の皆から総スカンを喰らい、グループからも追い出されて、ひとりグループになってしまう始末。

たけしとようこは内心ハラハラ心配しますが、カミイは反省の色を見せる事もなく、「平気だもん」とうそぶきます。

 

ここまで読むと、自己中心的でわがままなカミイに呆れかえる方もいらっしゃるかも。

でも……この身勝手なカミイが、不思議と憎めないんですよ。

なにしろ、カミイはまさに小さな男の子そのもので、親の立場から見ると、幼稚園あるある的トラブルのリアルさに苦笑い。

カミイは別に性格が悪い訳ではなく、友達に譲ったり分け合ったりする大切さをまだわかっていない子供なだけなんですよね。

幼稚園や保育園に入ったばかりの子供の誰しもが経験する、集団生活での軋轢。

カミイが引き起こすトラブルは、結局これが遠因な訳で……譲る事を知らずに我を通そうとする子供を集団に放りこめば、そりゃそうなりますよ~。

私には、カミイに自分の息子達の姿が重なって見えます!

 

カミイの言動には、この本を読んでいる子供達も共感する部分が相当に多いはず。

なにしろ、自分達子供の鏡写しみたいな存在。

カミイの一挙一動を見て、自分も身に覚えのない子供なんて、ほとんどいないのでは?

等身大のカミイに自己投影し、そして、逆にカミイを通して自分自身を客観的に見る事をできるのが、この本の特色です。

不思議な事に、自分がギャンギャン泣き騒いでる当事者の時にはわからなくても、カミイがギャンギャン泣き騒いでいる姿を見ると「あれれ、カミイが悪いのに……」と状況を冷静に理解できるんですよね。

 

客観視できるのは、カミイだけではありません。

自分と年も変わらない子供であるたけしとようこが、カミイを怒りきれず、結局は心配し庇おうとする姿からは、世話をする側の視点や言い分もあるのだ、と気づかせてくれますよ。

カミイに振り回されるもも組の子供達からは、振り回される立場の視点。

それぞれの立場を複数の視点から客観視して追体験していく事で、誰にでも事情や考えがある、と気づくでしょう。

読んでいる子供も自分自身を振り返り、集団生活における他者への思いやりの必要性を学んでいく。

こんなにうまくいくかは別としても、よくできた流れでしょう?

 

 

ラストに待っている大事件……!

友達のみんなに呆れられたり怒られたり……でも、わがまま放題だったカミイ自身も少しずつ成長していきます。

ひとりぼっちではできる事に限りがある。

ひとりぼっちでは寂しい。

ひとりぼっちでも誰かが見てくれている。

小さな気付きをいくつも重ねていって、カミイ自身も自覚しない内に考え方が変化していくんですよね。

もも組の子供達との和解は成立していなくても、いつも「自分・自分・自分……」だったカミイが人間関係の大切さに気づき始める姿には、心からホッとします。

 

しかし、このタイミングで起こるのが、お散歩中のもも組の子供達へダンプカーが突っ込んでくる大事件!!

突進してきたダンプカーをカミイが身を挺して止めようとする一連の場面には、読み聞かせていて思わず目頭が熱くなります。

この衝撃的な場面では、カミイの心の内は一切描かれないんですよ。

残ったのは、行列の一番最後を歩いていたはずのカミイが真っ先に飛び出して、ダンプカーから友達を守り、ぺしゃんこになったという事実だけ。

一体何を思ってダンプカーの前へ飛び出していったのか……その解釈は、もも組の子供達と読者である子供達に委ねられているのです。

 

ダンプカーを止めようとしたカミイの気持ち。

動かなくなったカミイを前にした、たけしとようこの気持ち。

カミイと完全に仲直りしていないままだった、もも組の子供達の気持ち。

数々のわがままエピソードを積み重ねてきた末に起きた『ロボット・カミイ』最大のドラマはラストまで怒涛のように、この本を読んでいる子供達へ、想像力をフル回転するように促します。

想像力を働かせて、登場人物の心情を理解しようというのは、読解力の初歩。

読書の面白さを子供へ伝え、読解力を養っていく幼年童話としては、うまい話の持っていき方ですよ。

 

なお、悲しい結末は嫌、という方はご安心ください。

ロボット・カミイは、とっても素敵なハッピーエンド。

もう二度と動かなくなってしまったカミイを悼み、カミイの為にみんなでお葬式をしてあげようと準備をしていたその時、奇跡が起こる……!?

「あのカミイがよくぞ成長した……!」と胸がいっぱいになる感動の結末、笑いと幸せな涙に満ちた「さよなら」は、ぜひ実際に手に取って体験する事をお勧めします。

 

 

古田足日さんの作品における子供像

古田足日さんの描く子供像は、いつでも強い負けん気というか、反骨精神が旺盛です。

大人の都合や周りの思惑になんて決して屈しない、子供自身の意志が生み出すパワー。

その熱量の高さが物語を大きく動かしていき、読んでいる子供達を夢中にさせるんですよね。

代表作の『おしいれのぼうけん』などは、その典型です。

 

 

カミイは人間ではありませんけれど、その子供像をしっかり受け継いでいます。

使いどころが良いか悪いかは別として、自分を曲げない鋼鉄のような意志の強さ、嵐のように周りを巻き込んでいくパワーが、カミイの魅力である事は間違いなし。

この本を読む年頃の子供にとって、現実にはなかなか真似できないけれど、周囲を振り回すカミイの言動は相当に眩しく映るはずですよ。

子供は、完全無欠の良い子よりも、ちょっと悪い子に憧れる向きがありますからね~。

自分達にはできない事を平然とやってのける、そこにしびれる憧れるぅ!……という気持ち、お心当たりがある方もいらっしゃるのでは?

 

そんな熱さと強さを秘めた子供像を描きつつ、古田足日さんは登場人物が自身を振り返った上での小さな成長を描きます。

成長に至るまでの物語性の高さも特徴的。

面白い事に、この成長に大人はほとんど関与しません。

先生などの大人は出てはくるものの、常に傍観者。

子供は、同じ子供との人間関係の中、自分で問題に取り組み、その経過の中で成長していくんです。

人は他者から与えられたものでは成長しない、自分自身で獲得したもので成長する。

子供は不完全だからこそ、常に自分の力で成長し続けるもの、という眼差しを感じますね。

『ロボット・カミイ』もまさにこの古田節が炸裂してますよ。

 

 

ちなみに、カミイのお話、4編に分けた紙芝居にもなっています。

紙芝居の読み聞かせのコツは、一歩引いた姿勢を守る絵本とは異なり、読み手の表現力を発揮するのが重要。

紙芝居では、子供に見えるのは絵だけですから、語り手が言葉の全てを語り尽くさなければならないのですよね。

絵本よりも更にドラマティックな読み聞かせ方を必要とする紙芝居の『ロボット・カミイ』は、古田足日さんの作風をまた違った切り口で楽しめそう。

図書館で紙芝居の貸し出しをしている場合もありますので、もし興味のある方は試してみて下さいね。

 

 

我が家の読み聞かせ

私が子供の頃に大好きだった本でして、自分に子供が生まれたら是非読ませたいと思ってたんですよ。

念願叶って、息子達に読み聞かせ~。

 

一気に読むのは長いですから、1~2章ずつ読み聞かせしてます。

4歳頃にはお話の長さに集中力が保てなかったのですが、5歳以降からはきちんと聞いていられるようになりました。

「次が待ちきれない!」とお話を最初から最後まで楽しめるようになったのは、幼稚園年長からでしたね。

小学1年生レベルの漢字(フリガナ付き)を使ってあるので、長男は7歳頃から独力で黙読するようにもなりましたよ。

 

読み聞かせでカミイのセリフを読む時は、記憶の中の幼稚園児だった自分を引っ張り出してきて、子供そのものになりきります。

カミイのむちゃくちゃぶりを息子達と一緒に私も満喫できるのは、とっても楽しい時間。

けれど、やはりトラック事件からカミイのお葬式準備までのくだりは、2人とも神妙な顔をします。

「おかーさん、カミイは死んじゃったの?」

「カミイはどうして動かなくなったの?」

と耳打ちしながら質問……。

人の死に関わった経験がなくても、カミイが只事ならぬ事態に陥った事は5歳次男にも感じられるんでしょうね。

ですから、ラストのハッピーエンドが余計に心へ響くらしく、歓声や笑い声をあげますよ。

これだけ息子達の感情が振り幅大きく揺り動かされているのを見ると、古田足日さんのお話はやっぱりドラマティックで面白いんだなあ、と実感します。

 

 

まとめ

幼稚園・保育園・小学校……子供にとって、同年齢での集団生活は十数年に及びます。

人間関係をどう築き、どう順応していくかは、子供にとって大きな問題。

必要なのは、他者を思いやる心、協調性ですけれど、それって一体どういうものなのか??

言葉で説明しても、子供にはなかなか理解してもらいにくいですが、カミイの物語を通してなら、心には伝わるかもしれません。

最後の場面でカミイが歌う「ひとりじゃないよ」は、重みがありますよ。

 

環境も人間関係も一新して、幼稚園や保育園とは違う集団生活をスタートする小学校入学前後にも、ぜひお読みいただきたい1冊です。

 

 

作品情報

  • 題 名  ロボット・カミイ
  • 作 者  古田足日(文)・堀内誠一(絵)
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  1970年
  • 税込価格 1,430円
  • ページ数 92ページ
  • 対象年齢 4歳から
  • 我が家で主に読んでいた年齢 6~7歳(次男は5歳時点でカミイ大好き!)