皆様はおばけのアッチをご存じですか?
40年以上愛されるおばけのアッチは、TVアニメ化もした幼年童話のロングセラー。
食いしん坊なアッチはこの40年余の間に、レストランのコックさんにもなり、様々な出会いに恵まれ、沢山の子供達と友達になってきました。
そのアッチが、初めて人間と友達になった時の記念すべき第1作がこちら!
小学校低学年の子供が自力で読みやすいお話です。
おばけが怖い子、苦手な子でも大丈夫。
アッチはとってもチャーミングなおばけですから、きっと大好きになれるはずですよ。
簡単なあらすじ
レストランの屋根裏に住む、おばけのアッチ。
アッチはいつもレストランの食事の1番美味しいところだけをこっそりつまみ食いしている食いしん坊です。
今日はお出掛け先で、美味しそうなスパゲッティを作っている女の子エッちゃんを発見〜。
よーし、あの子を脅かして怖がらせて、逃げた隙にスパゲッティを食べてしまおうと企みますが……?
絵本の紹介
アッチとスパゲッティの特別な関係
アッチのお話は、主人公が食いしん坊なだけあって、いつも美味しい食べ物が出てくるのが魅力です。
今回は、エッちゃんが作る「トマトソースのスパゲッティ」。
トマトソースの色は”お日さまいろ”、それを茹で上がったばかりのほかほかスパゲッティにたっぷり掛けて頂きまーす……お腹が空いているアッチでなくとも、この上ないご馳走に見えてきませんか?
2人が食べている場面は、こちらも思わず口をモグモグ動かしたくなるくらい美味しそう~。
余談ですが、出版当時の1980年前後におけるスパゲッティは、私達が今抱くイメージよりも遥かにお洒落なメニューでした。
家庭で出てくるスパゲッティなんて、ナポリタンが精々、頑張ってミートソースくらい……その他のスパゲッティが普段の食事に出てくるなんて、まだまだ少なかった時代です。
その時代に、エッちゃんが作るのは「トマトソースのスパゲッティ」!
このトマトソースが実際にはどんなソースなのか、ミートソースを指しているのか、トマトと玉ねぎだけでシンプルに作るソースなのかは、はっきりとはわかりません。
しかし、何にせよ、アッチがよだれを垂らすだけはある、お洒落メニューであった事は間違いないんですよね。
さて、この最ッ高に美味しそうなスパゲッティを巡って、アッチとエッちゃんが繰り広げる駆け引きが実に愉快!
アッチがどんなに頑張って怖がらせようとしても、全く動じないエッちゃん。
なにしろ、1人でお留守番して、自分でスパゲッティを作るくらいのしっかり者ですから、多少の物音や風なんて、クスッと笑い飛ばしてしまうのです。
堂々とスパゲッティをパクつくエッちゃんに業を煮やして、とうとう姿を現し直接脅かそうとするも、逆に、エッちゃんに恐怖のどん底へ叩き落され、おばけの面目丸潰れ、ミイラ取りがミイラになるアッチ。
これはエッちゃんが1枚上手!
頭の回転の速さと、おばけの鮮やかなあしらい方、そしてアッチへ見せる優しいアフタフォローには感心しきりです。
スパゲッティを巡る2人の攻防、何度読んでも、やっぱり面白いな~~!
主人公のアッチがこれまた魅力的なキャラクターなんですよ。
ちょっとワガママで、食いしん坊、目先の食べ物にふらふら~~っと釣られて、自分中心で、甘えん坊。
ずっと独りで暮らしているので、友達の作り方だってよく知りません。
欲しいもの(食べ物)があっても、それを自分で作る事も、誰かと分け合う事も知らず、こっそり奪っていく事しか知らないアッチは、小さな子供そのものです。
読んでいる子供が自分自身を投影するもよし、「もう、アッチは仕方ないなあ」と上から目線で読むもよし。
どちらにせよ、アッチは子供達にとって、とても身近な存在なんですね。
このアッチがエッちゃんとの出会いにより、いつも食べる側だったのが、自分で作る側へと成長したラストは、本当に素敵な結びです。
友達との関係の中で、あるいは、人任せではなく自力で挑戦してみる事で、人もおばけも少しずつ成長できる……スパゲッティを作れるようになったアッチは、もう以前のアッチではありません。
ただ人から与えられる側ではなく、人へ与える側へと変わったアッチ。
エッちゃんへスパゲッティを振舞う為に腕を振るうアッチは、成長への一歩を踏み出しました。
読んでいる子供達も、きっと自分達でも気づかぬうちに、この物語を通して、アッチと一緒に成長への一歩踏み出せる……かもしれませんよ?
ちなみに、本の最後にアッチが作るスパゲッティは、実際、アッチがシリーズ中でコックさんへとなる未来へと繋がる一皿になるんですよ。
料理ができなかったアッチが、最初に作れるようになったのがスパゲッティ。
料理への第一歩、コックへの未来に進む為の分岐点となったメニューになる訳です。
いやー、人間もおばけも、何がきっかけで未来が決まるか、わからないものですね~~。
なお、絵本から児童書への過渡期に読むのに向いている本ですから、挿絵もたっぷり。
どのページを開いても、表情豊かなアッチの顔がのぞいています。
文字も大きめで読みやすいので、我が家の5歳次男も幼稚園年中の頃から、読み聞かせを一緒になって楽しんでましたよ。
小学校低学年になったら、自分で本を読む練習をアッチの本でどうぞお試しください。
角野栄子さんの文章表現がうまい!
文章を書いたのは、ジブリ映画の原作にもなった児童文学『魔女の宅急便』で有名な角野栄子さん。
角野さんは、いくつもの小さなエピソードによる描写の積み重ねで、登場人物それぞれの人物像を浮き彫りにし、読む人の心を動かす物語を紡ぐのが大変上手な方です。
アッチのお話でも、その手腕を存分に発揮。
例えば、アッチの普段の食事内容を描写する時、角野栄子さんが綴った文章がこちら。
フルーツポンチだったら、さくらんぼ。
コーヒーだったら、はじめの ひとくち。
カステラだったら、下の ちゃいろいべたべたしたところ
(引用元:ポプラ社 角野栄子(文)・佐々木洋子(絵)『スパゲッティがたべたいよう』1979年出版)
美味しい料理の1番美味しい所だけをかじるとは、アッチはなかなか口が肥えた贅沢ぶり……相当な食いしん坊です。
しかも、レストランの料理を勝手に食べてしまうシチュエーションでこれなんですから、人の事などお構いなし、ワガママで意地汚い面もありますよね。
自分中心で、好きなものだけ選り好みするのは、小さな子供とそっくり。
むしろ、アッチの場合、叱る親もいませんから、やりたい放題なのです。
家に帰れば、ぽんぽこりんのお腹を抱えながら、満足気にようじで口をせせるアッチ……行儀が悪いけれど、どうにも憎めない愛嬌たっぷり。
ね、これらの描写を読めば、アッチがどんなおばけの男の子なのか、伝わってくるでしょう?
角野栄子さんは絵本だろうと児童書だろうと、人物像に対して、直接的な描写はほとんど使いません。
何気ない行動や発する言葉が全てであり、深い理解をするには、常に文脈から自分で情報を汲み取らなければならない……つまり、物語を読み解く力を必要とするんですよね。
いや、これ当たり前と思われる方も多いかもしれませんが、他の方と読み比べてみると、角野栄子さんはこの特徴が顕著なんですよ。
子供向けですから、使う言葉自体はわかりやすくシンプルですが、遊び心に満ちていて、物語性の高さは突出。
おかげで、子供にとっては、読解力を自然と養う事ができます。
読解力を伸ばしていこうとする小学校低学年にぴったりでしょう?
なお、このタイトル『スパゲッティがたべたいよう』の「う」の文字にも、アッチの性格が出てると、私は感じます。
『スパゲッティがたべたいよ』ではなく、あえて『スパゲッティがたべたいよう』。
たった一文字ですが、これがあるとないとでは、アッチの幼さと甘えん坊ぶりの伝わり具合が違います。
こういう細かいこだわりも、やはり角野栄子さんは表現が上手いと思う部分です。
シリーズ初代ヒロイン、エッちゃん
表紙をご覧になればおわかりの通り、エッちゃんの髪型、時代を感じるでしょう?
出版された1979年当時に流行っていたヘアスタイルを取り入れている辺り、エッちゃんはなかなかのお洒落ガールだったのかもしれません。
ちなみに、これ、かつて大流行した聖子ちゃんカットではないんですよ。
松田聖子さんのデビューは1980年、一応エッちゃんの方が先輩なのです。
時代にそぐわぬ髪型のせいか、お姉さんキャラのせいか、エッちゃんはシリーズが続く途中でヒロイン交代の憂き目に遭います。
子供の頃からエッちゃんに慣れ親しんできた私としては寂しいー!
でも、シリーズ最初の頃はワガママで頼りなかったアッチを支える優しく頼りになるお姉さん的なエッちゃんの必要性が高かったですけれど、アッチがコックさんとして一人前になって以降は、お話のバランス的には、エッちゃんの必要性が薄れてきてしまったんですよね。
メインキャラクターがしっかり者×しっかり者、では子供にとって等身大に感じられる話を作り続けていくのは難しい……。
髪型も見た目も今っぽく、キャラクター付けも年齢を引き下げて設定してある新ヒロイン、ドララちゃん(ドラキュラの女の子)へとバトンタッチしたのは、必然なのであります。
エッちゃん、まさかの海外へお引越しによるお別れ。
「人生のステージが変われば、人間関係が変わる」をおばけのアッチで目にするとは思いませんでしたよ。
でも、ご安心ください、エッちゃんが戻ってくるお話もあるんですよ。
それが、新旧ヒロインの共演を楽しめる、40周年記念作『おばけのアッチ スパゲッティ・ノックダウン!』
アッチとエッちゃんの思い出の味、アッチの原点でもあるスパゲッティが再びテーマ。
アッチのシリーズを読むならば、ぜひ『スパゲッティがたべたいよう』と「おばけのアッチ スパゲッティ・ノックダウン!』の2冊も欠かさずに読んでいただきたいですね~。
あのワガママで独りぼっちで何も作れなかったアッチの成長、全てはエッちゃんとの出会いから始まったんだ……と長年読んできた身としては、胸が熱くなる思いです。
我が家の読み聞かせ
『スパゲッティがたべたいよう』は、私が子供の頃に大好きだった本なんです。
いつも1番美味しいところだけを食べるアッチが、食い意地の張った私はとっても羨ましかったんですよ。
何回も読んでは、自分も一緒に食べてる気分を味わいましたっけ。
そして今は、我が家の息子達が読み聞かせの度に物欲しげな顔……まるで昔の自分を見るようです。
血は争えないのね……と思いつつ、もし自分達だったら、何の1番美味しいところを食べてみたいかと聞けば出るわ出るわ、いろんなメニュー!
餃子の焼けてカリカリした羽だけ。
ショートケーキのイチゴだけ。
ホットドッグのソーセージだけ。
オムライスのケチャップがついた卵だけ。
お味噌汁のワカメだけ。
ホットケーキに掛かった蜂蜜だけ。
いやー、思った以上にどんどん出てくるものですから、思わず笑ってしまいました。
息子達、まだまだ食べるばかりで、自分達で作る方には頭が回らないようです。
大きくなったら料理をできるようになるんだ、と口にはしていますが、アッチのように実際にできるようになるのは、当分先のようですねー。
皆様もこの本を読む機会がありましたら、お子さんに聞いてみて下さい。
どんな「1番美味しいところ」が出てくるんでしょうね?
まとめ
読んで楽しく面白く美味しい本、それが「おばけのアッチ」シリーズです。
食べる事が好きな子供には、きっとハマりやすいはず。
何冊も出ているので、どれがオススメかは悩みますが、私はまず『スパゲッティがたべたいよう』を最初に読んでほしいかな……。
アッチがコックになって活躍している話もワクワクしますけど、やはり最初ダメダメだった頃のアッチを知っているか知らないかで、アッチがどれだけ頑張っているか、がわかると思うのですよねー。
まずは、お子さんへアッチの友達になってみないか、聞いてみて下さい。
アッチと友達になったらば……実はシリーズには、おばけのソッチ、おばけのコッチ、2人が主人公のお話もあるので、その子達とも友達になってみてはいかが?
作品情報
- 題 名 スパゲッティがたべたいよう
- 作 者 角野栄子(文)・佐々木洋子(絵)
- 出版社 ポプラ社
- 出版年 1979年
- 税込価格 990円
- ページ数 76ページ
- 対象年齢 6歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 6~7歳(次男は幼稚園年長から読み聞かせリクエスト出しまくりでした)