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絵本『王さまと九にんのきょうだい』爆笑必至!中国民話の面白さに開眼

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数ある民話絵本の中でも、テンポの良さと笑いのセンスはピカイチ!

「そんな馬鹿な!」と突っ込みたくなる意外性の連続は、思わず白旗を上げたくなる面白さですよ。

これはぜひ、未就学児のみならず、小学校低学年にもオススメしたいですね。

 

元は中国の少数民族であるイ族に伝わる民話。

主人公は、一目では見分けがつかないほどそっくりな9人兄弟……って、人数が多っ!

この9人兄弟を1人の人間と勘違いして翻弄される、悪い王様の滑稽さが抱腹絶倒なんです。

横暴な王様をぎゃふんと言わせる痛快さが元々の持ち味ではありますが、笑いを引き出す軽妙な文章センス、その笑いを増幅させる絵の素晴らしさが、魅力を倍増させていますね。

ダイナミックな荒唐無稽さに、腹の底から笑って楽しめる1冊ですよ。

読めば、中国民話にこんな愉快な話があったのか、とビックリするかも??

 

 

 

簡単なあらすじ

子供が欲しいと願っているのに、子宝に恵まれないおじいさんとおばあさん。

池から現れた老人からもらった薬を飲んだら、ついに待望の赤ちゃんが生まれます。

その数……なんと9人!

おじいさんとおばあさんの心配をよそに、9人兄弟はすくすく成長。

さて、ある日、王様の宮殿の倒れた柱を直せれば褒美が出ると聞いた9人は、兄弟の1人を早速宮殿へ行かせたのですが……?

 

絵本の紹介

主人公はまさかの九つ子!

この絵本、最初はその辺の民話にありがちなフツーの出だしなんですよ。

子宝になかなか恵まれない、善良だけれど貧乏なおじいさんとおばあさん。

日々祈る2人へ救いの手が早速差し伸べられる……お決まりの黄金パターンですね。

池から現れた不思議な老人が「ひと粒飲めば子供がひとり生まれる薬」を念の為か、9粒もくれる辺りは読み聞かせていて「ん?」と思うものの、パターンから大きくはみ出るほどではありません。

 

しかし、次のページをめくった途端、ギアチェンジ&エンジン全開!

9粒もらった内の1粒を飲んでもなかなか子供が生まれない事に業を煮やしたおばあさんが、やけっぱちで残り全部を一気飲みした途端に、一斉に生まれる総勢9人の赤ん坊。

いやいや、子供1人の育児だって大変なのに、貧乏な老夫婦が双子どころか、一気に九つ子の赤ん坊を育てるとか、無理難題過ぎるでしょ!

2ページに渡って、素っ裸で転がり、オギャーオギャーと泣き騒ぐ9人の赤ちゃん達。

9人もの赤ちゃんを前にして、呆然としながら泣いてしまうおじいさんとおばあさん。

もうこのページからして、つかみはOKとばかりに、笑いを取りに来てます。

いや、いくらなんでも、知らない人から貰った怪しい薬を9粒も一気に飲むからだよ、おばあさん……。

 

で、例の不思議な老人が再び現れて名付けた、この9人兄弟の名前がとっても変わっているんです。

 

  1. ちからもち
  2. くいしんぼう
  3. はらいっぱい
  4. ぶってくれ
  5. ながすね
  6. さむがりや
  7. あつがりや
  8. 切ってくれ
  9. みずくぐり

 

な、なんという適当なネーミング……もはや現代のキラキラネームが可愛く見えるレベルのむちゃくちゃさです。

民話は荒唐無稽さが持ち味ですが、それにしても「ぶってくれ」とか「切ってくれ」とか、それは人の名前なの……??

絵本の読み聞かせを聞いている子供も、頭にはてなマークが浮かぶ事でしょう。

しかし、この名前こそが、兄弟それぞれの個性を的確に表現していると、後になってわかるんですね~~~。

 

ちなみに、9人の赤ちゃん達が転がる場面の絵、よく見ると、どの赤ちゃんがどの名前か、わかるようになっています。

その微妙な描き分けが、じわじわと笑いのツボを押してくるのが心憎い演出。

2回目以降の読み聞かせをする時には、ぜひお子さんと一緒に当てっこしてみてくださいね。

 

9人兄弟VS王様の戦いの行方は……!

さて、おじいさんとおばあさんの心配をよそに、手も掛からず成長した9人兄弟。

彼らが、褒美目当てに宮殿の壊れた柱を直した事をきっかけで、言いがかりをつけてくる王様と対決する展開に……!

権力者が往々にして横暴なのは、古今東西どこも一緒ですけれど、褒美を出す約束をあっさり破って、難癖をつけ、更には命まで狙ってくるなんて、いかにも独裁者らしい専横ぶりですよね。

しかし、顔・背格好・服装もほぼ同じ「9人兄弟」、これを王様が「1人の男」と勘違いした事から、民話の皮を被ったどたばたコメディが始まります。

 

「名は体を表す」を地で行く9人兄弟、それぞれ名前通りの特殊能力の持ち主だったものですから、王様の嫌がらせは悉く空回り~~。

さあ、ここで思い出してください、彼ら9人の名前が何だったかを!

相手を「1人」と思い込む王様を手玉に取る、9人兄弟を登場順にご紹介しましょう。

 

  1. 誰も持ち上げられないほど重い宮殿の柱を軽々と直せる怪力の【ちからもち】
  2. 怪力ならば大食いのはず、と王様から仕掛けられたフードファイトを返り討ちにする【くいしんぼう】
  3. 大食いならば飢え死にさせようと牢屋に閉じ込めても、平然としている【はらいっぱい】
  4. 数人がかりで打ち殺そうとするも「いいきもちだ!」と喜ぶ【ぶってくれ】
  5. 谷底へ突き落したはずが、脛が谷底まで伸びて着地してしまう【ながすね】
  6. 火で焼き殺そうとしても、炎の中でニコニコ笑っているだけの【さむがりや】
  7. 雪山へ埋めて凍死させようとしたのに、雪の方が融けてしまう【あつがりや】
  8. 王様自ら切り殺そうとしても全く切れず、「いいきもち」と喜ぶ【切ってくれ】
  9. 溺死させようと川に放り込んでも、すいすい泳ぎ、逆に水を口から噴き出してきて、王様も宮殿も押し流してしまう【みずくぐり】

 

最後は、意地悪をする王様をやっつけて、村の皆が幸せになるハッピーエンド!

いやー、あらゆる悪行をモノともしない9人兄弟の豪快な活躍ぶりは、読んでいて実に胸がすく思いがしますね~。

特別な力を持つ9人兄弟の前には、王様ご自慢の権力もかたなしで、滑稽さが引き立ちます。

 

現実では、絶対権力者の前には弱者など踏みにじられて搾取されるのが精々……どんなに悔しくても、我慢しなければ生きていけません。

しかし、お話の中でならば、村人でも権力者をけちょんけちょんにできる……!

権力者を想像の中でとっちめるのは、どこの国どこの場所であっても、大衆にとって最高のエンターテイメント。

この民話が語り継がれてきた背景がどんなものか、なんとなーく想像ができますね。

 

このお話の特徴は、9人兄弟は基本決して暴力を振るわない、という事。

王様とその家来達があらゆる乱暴狼藉を働こうとも、それを同じ暴力で返すのではなく、暴力そのものを軽くいなして無効にしてしまう……という点が非常に特徴的です。

最後の【みずくぐり】は水をぷーっと口から噴き出して、王様も宮殿も押し流してしまいますが、これを純然たる暴力かと問われれば、ちょーーっと違いませんか?

相手と同じ土俵に立たず、軽やかに柔軟に王様の振るう権力をいなしてみせる姿には、この民話を語り継いできた、ごく普通の人々の姿が透けて見えます。

そう、力を持たぬ庶民のヒーローは、基本的に知恵や勇気で戦うモノ。

9人兄弟はそれぞれ人ならぬ力を持ってはいますが、王様の課す難題にどの兄弟が対応するかは知恵を絞って考えての事。

その意味では、9人兄弟は立派な庶民のヒーローなんですね。

 

また、この絵本では9人兄弟の心情は描かれず、逆に王様の心情がクローズアップされているのも、話を盛り上げる効果があるんですよ。

自分の地位を脅かされるのではと根拠のない不安に駆られ、何をしてもケロリとしている「1人の男」を恐れ、部下に無茶な命令を繰り返す小者ぶり。

そもそも王様の勘違いが前提なので、悪だくみする姿も妙に憎みきれず、笑いを生み出す余地があります。

そして、王様が目を白黒させる様子が繰り返される度に、次に出てくる兄弟の特殊能力は何なのか、読んでいる子供もワクワクが止まらない訳で……実に素晴らしい引き立て役ぶり。

ある意味、影の主人公はこの王様かもしれません。

 

民話絵本の難しさをクリアした2人の作者

訳担当の君島久子さんについて

訳を担当された君島久子さんは中国文学者・民俗学者である一方、児童文学にも通じておられ、中国の民話や昔話の研究・翻訳・紹介も数々手掛けてきた方です。

その経歴の積み重ねがあっての事でしょうか?

イ族に伝わる民話の魅力を残しつつも、日本の子供達が読みやすいように文章へ落とし込む手腕が素晴らしいっ。

 

海外の文学作品の訳って難しいんですよ、訳次第で作品は生きも死にもするものですからねえ……。

言語も文化も違う国の民話を子供に読みやすく、そして、国によって違う笑いのツボを日本向けにマイナーチェンジしながら、軽快で切れの良い文章に綴るのは、生半可な苦労ではなかったはずです。

でも、『王さまと九にんのきょうだい』の面白さは、私が熱を込めて前述した通り。

元々の民話自体が愉快なだけでなく、やはり君島久子さんの腕が存分に振るわれているからこそ、成立している面白さだと、私は思うんですよね~。

 

絵担当の赤羽末吉さんについて

挿絵は、絵本『ももたろう』で有名な赤羽末吉さん。

 

 

民話絵本=赤羽末吉さんの図式が浮かぶくらい、多くの民話を絵本にしてきた絵本作家さんですね。

しかし、「民話を絵本にする」というのは難しいんですよ。

その難しさについては、別記事でも取り上げた事があります。

 

ehonmusubi.hatenablog.jp

 

既に話の筋も一般的なイメージも決まっている分、作家の独自色が出しにくいのが、民話。

この絵本の題材は中国の少数民族の民話ですから、日本人にとって固定化されたイメージはありません。

ただし、その分、異国の文化を子供に分かりやすいようにどう表現していくかという別の課題がある訳で……結局、民話を描くのが難しい事に変わりはないんですよね。

 

しかし、赤羽末吉さんは、物語への独自の解釈力が非常に優れた方。

太く力強い線と日本画を思わせる美しい色彩で、唯一無二の物語世界を創り上げていく腕前は、この絵本でも健在です。

君島久子さんの文章とも阿吽の呼吸で、しっかり笑いのツボを押さえているのも見事。

王様の赤鼻&髭がぴょーんと伸びた妙に憎めない顔も、9人兄弟のずらっと並ぶ同じ顔に感じるシュールな笑い。

これらも全て赤羽末吉さんが生み出した物語世界ならでは、と思えば、私が賞賛したくなる気持ちもお分かり頂けるのではないでしょうか?

 

 

我が家の読み聞かせ

この絵本、我が家では大当たりでした!

初めて読んだのは、長男7歳・次男5歳の時でして、お腹を抱えてゲラゲラ大笑い!!

今まで相当数の絵本を読んできたつもりでしたが、息子達が民話絵本でここまで笑ったのは初めてでしたね。

 

2人が時に気に入っている兄弟は、「ぶってくれ」「ながすね」「切ってくれ」の3人。

既に何度も読んでネタが割れていても、この3人の場面が近づいてくると、「くるぞ、くるぞ~~!」と期待感MAXで、目をキラキラさせています。

いざページをめくれば、ヒーヒー言いながら転げまわって笑うので、読み聞かせている私の方もノリノリ。

読み聞かせた後は、2人で「ぶってくれ~~、もっとおれをぶってくれ~~!!」と絶叫。

いやー、めちゃくちゃ楽しんでますよ。

 

正直、ここまで気に入ってもらえるとは完全な予想外でした。

私はこの絵本を読んだ事がなく、最初は表紙を見ても「うーん、民話絵本かあ……」としか思わなかったんですよ。

けれど、絵本コラムやオススメ紹介記事などで、頻繁にこの絵本が絶賛されているものですから、「気は乗らないけれど、まずは試しに」と微妙な上から目線で手に取ってみたんです。

読み聞かせた初回にすぐ、己の料簡の狭さを思い知りましたね。

自分を絵本好きと思っていたくせに、こんなに面白い絵本を見落としていたなんて……!!

周囲の意見にも耳を傾けて、さっさと読んでおけば良かった、と後悔しました。

幸い、我が家の息子達が読むのに適切な時期を逃さずに済みましたが、危なかった~。

 

 

まとめ

民話は、その土地に住む人々が育んできた文化や風土、歴史などに根差すもの。

自分の国の民話を読む事は、自分自身のルーツを理解する事にも通じます。

そして、違う国の民話を読む事は、その国の人々のルーツを理解する為の大切な一歩。

相互理解の為に必要な何千何万もの歩みの中では、民話絵本を読むというのは、小さな一歩かもしれませんが、きっと無益ではないはず。

国際社会における相互理解の重要性が高まっている状況を鑑みれば、心の柔らかな子供にとって、その小さな一歩も決して無駄にはならないと私は思いますよ。

 

……という固い話は別にしても、純粋に面白い絵本なのでオススメ!!

食わず嫌いをするのは勿体ないので、ぜひ読んでみて下さいっ。

 

作品情報

  • 題 名  王さまと九にんのきょうだい
  • 作 者  君島久子(訳)・赤羽末吉(絵)
  • 出版社  岩波書店
  • 出版年  1969年
  • 税込価格 1,320円
  • ページ数 42ページ
  • 対象年齢 5歳から
  • 我が家で主に読んでいた年齢 5~7歳(小学校低学年が自力で読むのもオススメ)