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絵本『からすのパンやさん』楽しく美味しく食育!パン絵本の名作

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ほかほかこんがり美味しそうなパンが出てくるパン絵本の中でも、ぜひ読んでほしい名作『からすのパンやさん』。

絵本作家かこさとしさんの代表作であり、子供の心を捉え続けて半世紀以上経つこの絵本は、ただ普通のパンが出てくるだけの絵本ではありません。

出てくるパンの種類は合計100種類を超え、こちらの想像を超える個性豊かなパンがずらっと並ぶ絵は、子供の心を鷲掴み!

更に、ストーリーには、寂れたパン屋を巡る成功物語、からすの町を巻き込んだドタバタ騒ぎ、からす一家の家族愛、を盛り込み、お話としての面白さをとことん追求してあるんです。

絵が若干レトロなので、読まず嫌いで敬遠する方もいらっしゃるようですが、これを読まないなんてもったいない……!

美味しい・楽しい・面白いの三拍子が揃ったパン絵本、ぜひご賞味あれ~。

 

 

 

簡単なあらすじ

パン屋を営むからすの夫婦に、カラフルな色をした4羽の赤ちゃん達が生まれました。

可愛い赤ちゃん達を愛情たっぷりに育てる、からすのお父さんとお母さん。

でも、4つ子育児の多忙さゆえ、仕事に手が回りきらず、からすのパン屋さんは段々貧乏になってしまいます。

食欲旺盛な4つ子達には、失敗したパンをおやつに食べさせる日々。

そんなある日、近所の子がらす達が4つ子と同じパンを食べてみたいと言い出します。

4つ子もパン作りを手伝う気満々!

よし、では家族みんなで一緒にパンを焼いてみよう~。

 

絵本の紹介

素敵に面白いパンにご注目!

この絵本最大のハイライトは、パンが2ページ見開きで並ぶ場面です。

やっぱり、パン絵本はパンが出てくるページが1番の売りですよねー。

まず最初に家族みんなで力を合わせて焼いたのは、食パン・バゲット・あんぱん・メロンパン・クリームパンなど、定番のパン全19種類!

焼き色と照りが美しい、ほかほかの焼きたてパンが並んでいる様には思わず目が吸い寄せられます。

ああ、なんて美味しそう、思わずかぶりつきたくなります~。

名前の記載はありませんが、その形を見れば、何のパンなのかを推理できるので、読み聞かせながら「このパンは何のパンかな?」と当てっこするのも、この絵本ならではのお楽しみ。

絵本を読む子供にとっては、実際にパンを食べた経験と絵本に描かれたパンの知識が結びつく、絶好の気づきの機会ともなりますね。

 

さて、からすのパン屋さんとしての実力は確かなもののようで、買いに来たがらす達からは、パンの味は好評です。

しかし、子供と言うものは遠慮がないもので……値段を安くして、お店を綺麗にして、もっといろんなパンを作って、と言いたい放題。

こんなにずけずけ言われると、人(からす?)によっては気を悪くするかもしれませんが、言う事全部が間違っている訳ではありません。

実際、お店は掃除できていないし、蜘蛛の巣張っていたし、みすぼらしいし……。

子ガラス達の意見は、ある意味、ビジネス上の重要なフィードバック。

カラスのパン屋さん達、小さな顧客の意見を即座に取り入れて、サービスの質を改善・向上させます。

この絵本、商売上の大事なポイントをきっちり抑えてあるのが、面白いですね。

美味しそうなパンを目の前にして、こんな事を口にするのは無粋かもしれませんが、相手の意見を聞いて取り入れる素直さ、思考の柔軟性と素早い行動力は、ぜひ読んでいる子供にも見習ってほしいです。

 

そして、次のパンの見開きは、からす一家が総出で考えたアイデアパン。

さっきの見開きの定番パンを想像しながら、ページをめくるとビックリしますよー!

テレビパン、ながぐつパン、たいこパン、いかパン、チューリップパン……奇妙奇天烈な形をしたユニークなパンがなんと84種類!

見開きでこれだけの量を描いてあると、思わず「わあっ!」と声が出ますね。

誰しも「もしも○○だったら……」と想像をした経験をお持ちでしょうが、まさにこのページでは「こんなパンがあったら絶対楽しい!」という夢のパン屋さん状態。

パン嫌いは別として、ほとんどの子供はこのページに食いつくんじゃないでしょうか。

全てのパンの名前が記載されていて、どんなパンがあるのかをひとつひとつ見るだけで、胸がワクワク。

「このパンは一体どんな味なんだろう」と想像力を刺激します。

間違いなく、このアイデアパンの見開きページは、この絵本、いやパン絵本全体を見回しても、白眉でしょう。

子がらす達の意見に対して、これ以上ない形で質・量共に大満足のるパンを作ったからす一家、お見事です!

 

からすの描き分けにもご注目!!

さて、84種類もの素敵で面白いパンが売っていると聞けば、小さなお客さん達も当然張り切ってお店へ押し寄せますよね。

この新作パンの販売から始まる大騒動が、このお話の最高に愉快なポイントです。

パン屋ヘ慌てて飛んでいく子がらす達を見た大人達の勘違いが勘違いを呼び、町中のカラスはおろか、消防車・救急車・武装警官まで出動!

ただの新作パンの売り出しとも知らずに、からすの大群が黒い嵐のようにパン屋さんへ押し寄せる様子は圧巻の迫力ですよ。

グルメ要素のみならず、アクション要素まで仕込んであるとは、子供を最後まで飽きさせない物語構成。

勘違いが判明した後、飛んできたからす全員がパン屋へ整然と並ぶ姿には、行列大好きな日本人の姿が透けて見えて、ここでもクスッとさせてくれます。

 

そしてですね、この絵本の何が凄いかって、出てくるからす達全員、一羽一羽を描き分けているのです。

ざっと数えても200羽以上のからすが出てくるのですが、その全員ですよ!

4つ子達がカラフルな色でわかりやすい個性があるのは別としても、普通の黒いカラス達もみーんな顔立ちや服装などの個性が立っていて、1羽たりとて同じからすはいません。

間違い探し系絵本でもないのに、3ケタに上る数の登場人物を描き分ける絵本なんて、他になかなかないですよ?

そのほとんどがセリフ無し、いわばモブキャラですから、本来そこまで描き分ける必要もないというのに、手抜きは一切なし。

見開きのパンが並ぶ光景ではそれぞれのパンの個性を楽しみましたが、実はからす達の個性も1羽1羽楽しめるようになっているんですね。

いや~~、子供をとことん楽しませようとする、すごい演出です!

 

かこさとしさんについて

かこさとし(加古里子)さんは元科学技術者という一風変わった経歴をお持ちの絵本作家です。

素朴で愛嬌のある絵のタッチと明るいユーモア、とことん子供目線を大事にする創作スタイルが特徴的。

絵本の創作活動は半世紀以上に及び、昔ながらの日本文化を取り入れた「だるまちゃん」シリーズや、地球や宇宙の仕組みに迫る科学絵本などを世に送り出してきた、絵本界のレジェンドのお1人ですね。

 

 

かこさとしさんの何が凄いって、生涯現役を貫かれた事でしょう。

2018年5月に92歳で亡くなられたのですが、同じ2018年の1月に「だるまちゃん」シリーズの新作を3冊同時出版。

相当なご高齢だったにも関わらず、最後の最後まで絵本を描くという仕事に邁進していらした活動ぶりには、心から敬意を表します。

 

どうしてそこまでモチベーションを保ち続けていけたのだろうと不思議になりますが、旺盛な絵本創作活動の原動力が生まれたきっかけは、第二次世界大戦の頃にまで遡るそうですよ。

中学生時代に軍人になる決意をして、航空士官になる為の士官学校を目指したものの、視力検査に引っかかって不合格。

軍人を共に目指した仲間達は戦死し、敗戦を経験し、戦後の食糧難を経験し、周囲の大人達が戦中と戦後で態度を手のひら返ししていく様子を目の当たりにし……。

戦争は負けてしまえば、全てがひっくり返ってしまいます。

20歳前の多感な青年にとって、自己の存在意義を見失い、価値観がひっくり返ってしまうには、充分すぎる体験ですよね。

その時に経験した大人への失望と不信、自らの無知と選択に対する悔い。

これからを生きる子供達には、自分と同じ過ちを決して繰り返させまい、との決意がそもそもの始まり。

生き残った自分にできる事を探して迷い、絵本の道へと辿り着いたかこさとしさんの決意は、戦後生まれの私には想像もつかないほど切実で、文字通り最後まで描き続ける原動力となったと思われますね。

 

かこさとしさんは生前、数多くの雑誌等のインタビューへ応じてらっしゃいましたが、そのインタビュー中で子供達の事を「子どもさん」と丁寧に呼んでいらしたのが、非常に印象的です。

子供を人として対等な存在と見なし、常に真摯に向き合ってきた姿勢が見える呼び方。

いや、むしろ、敬意すら感じる呼び方に聞こえるんですよね。

大人と自分へ失望して懊悩した末に、未来を託そうと思った相手(=子供)への敬意が込められているのかな、と私は想像するのですが……。

かこさとしさんのインタビュー記事、様々な雑誌やホームページに掲載されていますので、もしお時間がありましたら、ぜひ読んでみてください。

 

ちなみに、かこさとしさんの経歴等を知ってから、この絵本を読むと、ラストのからす達がパン屋さんへ押し寄せる姿には、ちょっと皮肉を感じます。

誤った情報に踊らされて大騒ぎし、間違いを悟ると素知らぬ顔でその場をやり過ごす……。

からす達の群集心理に、かこさとしさんが敗戦時に見た大人の姿へ通じるものがあると思うのは、穿ち過ぎでしょうか?

 

40年ぶりの続編出版!

2013年には、『からすのパンやさん』の続編が40年ぶりに4冊同時出版。

出版当時、かこさとしさんは御年87歳ですよ!

まさか、40年越しにこの絵本の続編が、しかも4冊一気に出るとは思いもしなかったので、ビッグニュースでしたね~~。

4冊の内訳は『からすのやおやさん』『からすのおかしやさん』『からすのそばやさん』『からすのてんぷらやさん』。

 

 

成長した四つ子それぞれが主人公を務め、それぞれのお店をテーマにした商売繁盛の成功物語も、見開きで描かれるバラエティー豊富な面白メニューも、『からすのパンやさん』そのままで、魅力たっぷりです。

 

ただ、『からすのパンやさん』と違うと感じるのは、お店がうまくいかなくなる理由の状況が現実味を帯びていて、経営の厳しさや商売のコツなども全面に押し出されている点。

どこか牧歌的な『からすのパンやさん』と比べて、続編4作は少々シビアです。

『からすのパンやさん』は家族愛がベースとなっていますが、続編4作にはそれがないせいかな??

けれど、その分、人と人(カラスとカラス)の間の心の絆がモノを言う話になっていますから、読みようによっては、より人情噺に近いとも感じられます。

お子さんがこの絵本を気に入っているという方、元々ファンだという方は、ぜひ続編も試しに読み比べてみてくださいね。

 

 

我が家の読み聞かせ

食いしん坊長男、パン好き次男、共に3歳の頃から、『からすのパンやさん』を熱狂的に支持!

やはりパンの見開きページのインパクトが絶大だったようで、そのページを見た途端にお気に入り認定していましたよ。

 

文章量がそこそこあるので、長文の読み聞かせに集中できるようになるまでは、本筋とは関係ない、脇役カラス達の名前を連呼する部分などは大幅に省略。

本格的に全文を読み聞かせるようになったのは、幼稚園年少半ばを過ぎてから。

省略していた脇役カラス達の名前までも積極的に楽しめるようになったのは、結局幼稚園年長になってからでしたね。

 

ちなみに、それぞれのパンの見開きページでは、必ず読み聞かせを一旦ストップ。

並んでいるパンをじっくり眺めて、もし自分ならどれを食べたいかを熟考するのがお決まりです。

パンの見開きページは一番の見どころですから、子供の気が済むまでじっくり見てもらって、パンを思う存分堪能してもらうべし!

私も毎回食べたいパンTOP3を一緒に選んで楽しんでいます。

 

余談ですが、この絵本は親目線で見ると、からす夫妻の育児の大変さが沁みます~。

共働きでお店を切り盛りしながら、まさかの4つ子育児……いやはや、想像するだに恐ろしいカオス!

1人でも大変なのに、それが一気に4つ子ともなれば、育児経験のある方は皆震え上がるのでは?

子供の頃に読んだ時は、パン屋さんが段々貧乏になるくだりを読んで「からすのお父さんお母さん、もっと働けばいいのに!」と思っていましたし、息子達も同じようなセリフを言います。

しかし、人の親になった今は、それがどれだけ無理難題なのか、よくわかる……。

読み聞かせしながら、ついついからす夫妻に肩入れしてしまうのは、私だけではないのでは?

 

 

まとめ

このとびきり美味しく楽しく面白いお話は、からすの親子の愛情が基本となっている家族の物語、でもあるんですよね。

失敗して焦がしたり半焼けにしたパンを”せかいじゅうで おとうさんしか やけない、めずらしい おやつパン”と呼ぶ子供達の、お父さんに対する絶大な信頼には胸がほっこり。

4つ子がパン焼きも掃除も売り子の仕事も手伝い、立派な戦力として活躍する姿は、何でも自分でやってみたい年頃の子供達にとって、自分自身を投影できて、ワクワクする事でしょう。

家族の絆は、このパン絵本を一層美味しくしてくれるエッセンスです。

 

皆様もこの絵本を読んで、カラス家族と一緒に家族の絆を更に強くしてみませんか?

 

 

作品情報

  • 題 名  からすのパンやさん
  • 作 者  かこさとし
  • 出版社  偕成社
  • 出版年  1973年
  • 税込価格 1,100円
  • ページ数 32ページ
  • 対象年齢 4歳から
  • 我が家で主に読んでいた年齢 3~5歳(3歳は主に絵を鑑賞)