我が家の息子達に大人気、読み聞かせリクエスト率は断トツ、きつねのきっこシリーズ!
シリーズの中でも一番人気の『おなべおなべにえたかな?』は、タンポポが咲く春に読み聞かせるのがぴったりの、とってもコミカルで可愛らしい絵本です。
本作のテーマは食育、きっこと美味しいスープを巡るお話。
前半は懐かしの遊びを取り入れた掛け合いを楽しみ、後半は皆で力を合わせたクッキングにワクワク!
失敗は成功の母、を地で行く結末には心がポカポカに温まりますよ。
そう、この絵本は「失敗」の絵本。
大好きな人からの頼まれ事だっったのに、ついつい目先の欲に駆られて、大失敗をやらかしてしまったら、どうする!?
子供にとっては日常のあるあるなアクシデント、毎日自分達も経験している「失敗」をきっこ達がどうやって乗り越えるのか……子供はきっと興味津々になるはず。
失敗を失敗のまま終わらせない、愉快な一発逆転のストーリーを春の香りと一緒にどうぞお楽しみください。
簡単なあらすじ
きつねのきっこ、友達のイタチのちい&にいと一緒に、森のお医者さんをしているおおばあちゃんの家へ遊びに行きます。
おおばあちゃんはお鍋でことこと人参スープを作っている最中でしたが、急患に呼ばれて出掛ける事に。
おばあちゃんから留守番、そしてお鍋の番を頼まれたきっこ達。
人参スープを美味しく仕上げる為にも、まずは味見をしてみなきゃね……!?
絵本の紹介
美味しそうなスープで食育!
我慢しなければと思っていても、目の前の誘惑に弱いのが子供というもの(大人もですか?)。
人参スープの甘くて美味しそうな香りと熱々の湯気がもうもうと立ち上る魅惑のお鍋を前にして、自分たちの手にはスプーンがあり、お鍋の番を任されたという大義名分がある……そりゃあ、正々堂々と味見もしますよね~。
きっこも、ちいも、にいも、お鍋の蓋を開ける度に人参スープを味見。
味見をすればするほど、きっこ達がどんどん蕩けるような至福の表情になっていくので、一体人参スープとはどれほど美味しい至高のグルメなのかと、読んでいるこちらも思わず喉がごくりと鳴ります。
味見を繰り返しては、塩を加えたり、バターを加えたりして、じっくりことこと煮込んだ人参スープ……これは絶対美味しいに決まってますよ。
誘惑に負けて味見のお代わりをするきっこ達を見れば、読み聞かせしてもらっている子供は笑いながら「あー、だめだよ~」「またお代わりしちゃったよ~」とはやし立てる所じゃないでしょうか。
いつも注意されている立場の子供にとって、誰かに正々堂々と上から注意できる立場になれるなんて、絶対に見逃せない機会ですものね。
ある意味、普段の自分を客観視できる機会でもあるかも?
いつの間にやら、蝶やネズミなど、味見する小さなメンバーがお鍋の周りに大集合。
誘ってもいないのに、お皿片手に集まってくるとは、ちゃっかりしていますよね。
いくら身体が小さくたって、こんなに数が集まれば、そりゃ人参スープがなくなるのも当たり前でしょう~。
案の定、味見しすぎて空になったお鍋を前にして、ピンチへ陥るきっこ達ですが、全員の協力による見事なチームワークで、奇跡的に挽回してみせます。
材料は、それまでもちょこちょこ描かれていた豆、そして、春を代表する花○○○○!
それぞれが己のやるべき事を探して懸命に働き、皆で力を合わせれば、何だってできる!!
絵本後半は、自分達でいちから料理を開始!
皆が一丸となって作り上げた新しいスープは、清々しい青みのある春の香りで、まさに春だけの期間限定スープ。
あら~、これはこれで美味しそうっ、私も飲んだ事がないスープですよ!!
一体何の花でできているスープなのか……せっかくですから、その正体は伏せておきますね。
実は、表紙の絵で既にネタバレ、下のページ画像でも文章でネタバレしていますが、ぜひ読んでからのお楽しみにしてみてください。
この絵本、スープ作りを題材にしているだけあって、食育絵本の一面を持っています。
実際、スープを味見しながら調味料で味を決めていく様子や、鍋が焦げ付かないように水を入れる様子など、描かれる料理する姿は、現実でも見られるものばかり。
これを見るだけでも、子供にとっては食育の一環になるんですよ。
なにしろ、小さな子供は、食卓に並ぶ食事は「誰が」「何を」「どうやって」作っているのか、はっきりとは理解していません。
大人が台所に立っている姿を見て、漠然とはわかっていても、具体的な調理手順や原材料などはわからない……それをわかるだけの知識や経験がないんですね。
ですから、きっこ達がスープ作りをする姿を見て、「スープ(料理)とはこうやって作るのか」と学び、「料理ってこんなに楽しいんだ」と感じる、その絵本を通した経験はまさに食育。
特に、味見の必要性について学べるのが、この絵本の良さですね。
料理の味を決めるには味見が大切、味見をし過ぎると鍋が空になっちゃうよ、と学べる訳ですから~。
「おなべおなべにえたかな?」の繰り返しの効果
人参スープを煮ているお鍋は、よく見ると顔があって、話もする不思議なお鍋。
このお鍋ときっこ達との掛け合いがリズミカルで楽しいんですよ。
「おなべおなべにえたかな?」と問いかければ、「にえたかどうだかたべてみよ」と答えるやり取り……なんだか聞き覚えがある方もいらっしゃるでしょう。
そう、伝承遊び「あーぶくたったーにえたったー」(輪になって手を繋いでぐるぐる→追いかけっこする遊び)を連想するフレーズが出てくるんです。
3回繰り返される「にえたかどうだかたべてみよ?」のテンポの良さが面白くて、読み聞かせる時、懐かしのメロディーに乗せて口ずさめば、子供も一緒になって唱和。
誰もが知っている遊びを作中へ自然に取り込む事で、お話の中へ子供が一気に自己投影できるようになっているのは、よくできた仕掛けです。
そして、さすがは小出保子さんだな、と感じるのは、この繰り返しのうまさ。
きっこシリーズ第1作『やまこえ のこえ かわこえて』でも、同じフレーズの繰り返しとストーリーの進行をリンクさせたリズム構造の素晴らしさが評判を呼びました。
シリーズ2作目のこちらでも、前作よりはシンプルながら、同じフレーズの繰り返しを活用しています。
子供はどんな形であれ、「繰り返し」が大好き!
特に、小さな子供が同じ遊びや同じ絵本を延々繰り返しても飽きないのは、育児経験をお持ちの方ならば、お心当たりがあるでしょう。
子供にとって、「繰り返し」は安心感と自己肯定感を育み、同じ思考・同じ行動のパターンをなぞる事で無意識下の内に反復学習する為の本能的なモノ。
絵本の中で、同じような場面の繰り返しが多用されるのはよくある事ですが、これも子供の「繰り返し」への欲求を取り入れているんでしょうね。
なお、この子供特有の性質については、過去記事でも触れています。
この絵本では、お鍋ときっこ達の掛け合いを同じように繰り返しながら、スープがどんどん美味しく煮えてくる変化、味見するきっこ達の表情の変化、お鍋の内容量の変化など、小さな違いを散りばめてあります。
同じような繰り返しに見えて微妙に違う、その差に子供が自分で気づいた時、繰り返しの面白さが倍増!
そして、子供にとって、「自分で気づく」というのは知的な成長を促し、将来の学びへと繋がる一歩になります。
純粋に楽しいだけでなく、そんな意味のある「気づき」があるなんて……絵本って、すごいですね~~、ちょっと感心してしまいます。
この掛け合いの場面は間違いなく、この絵本のハイライトですので、ぜひお子さんと一緒に楽しんでくださいね。
おおばあちゃんの対応から「寛容さ」を学ぶ
この絵本の柱とも言うべきは、お話に出てくる数少ない大人である、おおばあちゃん。
番を頼んだはずの人参スープが、戻ってきた時に全く別のスープになっていたら……私ならば、まずは「何でこうなった?」と問い質したくなりそうなものです。
しかし、おおばあちゃんはスープの変化には驚いても、その変化の原因であるきっこ達の失敗には一切言及しません。
むしろ、”よく おなべの ばんが できたこと!”と褒めています。
森のお医者さんを務めるおおばあちゃんほどの立派なきつねが、状況から見て、人参スープ消失事件と小さな犯人達に気がつかぬはずもないのに、どうして??
それは、おおばあちゃんが「できなかった事」よりも「できた事」を大事にしているから。
小さな子供にとって、できなかった事を責めるよりも、できた事を褒めて、成功体験を積み上げさせていく方が有意義である、とおおばあちゃんは年の功で悟っているのでしょうね。
今取り上げるべきは、「スープの番ができなかった事」よりも「新しいスープ作りができた事」。
きっこ達の行動と結果を瞬時に受け入れ、満面の笑顔で、そして心の底から、新しいスープを賞賛するくだりに、私はおおばあちゃんの懐の深さに感服します。
そうですよねー、人参で作ろうが別の材料で作ろうが、スープはスープ。
失敗したって何回でもやりなおせばいいじゃない!
スープは美味しければいいじゃない!
みんなで楽しく食べられたらそれでいい、終わり良ければ総て良し。
最後のページで、スープをお腹いっぱい食べて、お腹ぽんぽこりんのみんなをニコニコ笑顔で見守るおおばあちゃんのおおらかさ。
失敗を寛容な心で受け入れ、子供が失敗から何を学び何を汲み取るかを見守る……確かに、そんな考え方があっても素敵ですね。
きっこシリーズ、もうひとつの春の絵本
きっこシリーズはこちらを含めて全5冊。
『おなべおなべにえたかな?』は第2作に当たりまして、春が舞台のお話は他に『おべんともって おはなみに』があります。
『おべんともって おはなみに』は販売停止になってしまっているのか、新品で入手が難しいのが残念……こちらも、春に読むのにふさわしい素敵な絵本なんですけどねー。
簡単にご紹介しますと、お花見を題材にしているだけあって、画面いっぱいに咲き誇る桜の美しさを堪能できるだけでなく、きっこの女子力(お母さん力?)の素晴らしさに感じ入る良作です。
人参スープを前にして微笑ましい失敗をしていたきっこの違う一面、しっかり者のお姉さんな部分が見られますよ。
イノシシのお母さんの留守にて預かった、やんちゃ盛りのうり坊5兄妹を相手に、きっこが根気強く、そしてユーモアたっぷりに面倒を見る姿は、頼もしいの一言。
初見当時、4歳&2歳だった息子達の世話に追われていた私には輝いて見えました。
きっこがもし大人になって子供が生まれたら、素敵なお母さんになるだろうな、と未来への予感を感じさせる絵本です。
もし図書館で見かける事がありましたら、どうぞ読んでみて下さいね。
なお、きっこシリーズの絵本については、こちらの記事でも紹介しています(↓)。
我が家の読み聞かせ
食いしん坊な我が家の息子達は、最初に図書館でこの絵本と出会い、きっこ達が大好きになりました。
以前、どこかで目にしたコラムに女の子向けと紹介されていましたが、とんでもない、男の子にだって、とーってもオススメな絵本ですよ。
息子達は、お手伝いしたい盛りの年頃という事もあり、子供だけでお鍋の番をするというのが魅力的に映るらしいです。
そして、味見をしまくるきっこ達には「ね、きっこ達食べ過ぎだよね、でも、ちょっと味見してみたくなってくるね!」と一緒に顔を見合わせてクスクス笑い。
お鍋に煮え具合を聞く時は「ぼくがよむ!」と兄弟で張り切りますし、一緒に食べる真似をする時は誰が一番多く食べるかを私も一緒になって競争します。
絵本を通して、食事を作る楽しさと食べる楽しさを味わえるので、ある意味、食育にもなりますね。
余談ですが、私が台所で人参を使ったポタージュを作ると「きっこちゃんと同じスープだね!」と息子達は大喜び。
きっこのおかげで、2人とも野菜ポタージュ大好きっ子になってくれたのは、思わぬ恩恵でした。
まとめ
私はきっこシリーズが大好き、当ブログでも頻度高く取り上げているのですが、その理由のひとつに、きっこ達の友情があります。
きっこはいつでも友達と一緒!
常に友達と楽しい時間を共有し、力を合わせて困難を乗り越え、共に成長の歩みを進めていきます。
子供が幼稚園や保育園や小学校で、友達と過ごす時間は、心身の成長の為にも、かけがえのないもの……それを絵本の中で、きっこ達が体現してくれているように思えるんですよね。
きっこシリーズを読めば、きっこ達の友情と成長を通して、読む子供達も得られるものがあるはず!
という事で、私はきっこシリーズを推しています。
その推しているきっこシリーズの中でも、『おなべおなべにえたかな?』は、声に出して読むのが特に楽しい絵本。
ぜひ、きっことお鍋との掛け合いを親子で一緒に再現してみてくださいね。
作品情報
- 題 名 おなべおなべにえたかな?
- 作 者 小出保子
- 出版社 福音館書店
- 出版年 1997年
- 税込価格 990円
- ページ数 32ページ
- 対象年齢 3歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 3~6歳(次男は3~6歳までずっと愛読中)