きつねのきっこシリーズ、第1作目がこの『やまこえ のこえ かわこえて』。
実りの秋を寿ぐ収穫祭の季節、子供達と読むのにふさわしい絵本です。
数え歌のようにリズミカルな文章と優れたストーリー構成が秀逸!
きっこを知っている方も知らない方も、ぜひきっこ達と一緒におつかいへ出かけてみましょ!!
簡単なあらすじ
秋の満月の夜、きつねのきっこが油揚げを買いに町のお豆腐屋さんへおつかい。
暗くて不安な夜道の外出も、友達と一緒なら怖くない!
道の途中で、きっこの持っている油揚げ目当てにイタズラを仕掛けてくる犯人は一体誰なんでしょう?
絵本の紹介
お話を引き立てるポイントは?
この絵本の最大のポイントは、「繰り返し」の上手さです
タイトルにもなっているフレーズ「やまこえ」「のこえ」「かわこえて」を道行きの場面(山・野・川)のそれぞれで繰り返す事で、リズミカルな読み心地。
子供は同じようなフレーズを何度も繰り返すのが好きな傾向がありますが、その繰り返しをたっぷり楽しめる上に、きっこのおつかいが遠出している事を地形の変化で感じさせる効果もありますね。
更に、おつかいの行きと帰り、同じ文章の構造で同じフレーズを繰り返しつつ、ストーリーは進んでいくという、巧妙なリズムの二重構造。
お見事っ、これぞ絵本界のリズム芸ですよ!!
一見シンプルな話に見せかけて、単なる繰り返しに終わらせないストーリーの構成力が素晴らしいです。
更に、ほのぼのとしたお話の中へ、ドキドキする展開が組み込まれているのが、ピリッとした緊張感をもたらし、アクセント。
なにしろ、小さな子供にとって、おつかいとは困難極まる重大任務。
そのおつかいを夜更けてから1人で(途中、友達が加入してきますが)、しかも油揚げを狙う何者かの襲撃(イタズラ)も加わるとなれば、スリルにスリルが重なって、読んでいるだけでハラハラ。
果たして自分だったら、1人でお使いに行けるだろうか、真っ暗な夜に出掛けられるだろうか、誰かに脅かされても平気だろうか……?
そもそも、どうしてきっこは真夜中にわざわざ怖い思いをしてまで、油揚げを買いに行くの??
油揚げを狙ってくるのは一体誰なの???
自分は安全圏にいながら、スリルと謎をしっかり味わえる……絵本の読み聞かせならではの仮想体験を存分に楽しんでもらえる1冊ですね。
きっこを支える友情パワー!
きっこ達の友情の輪も、この絵本の魅力のひとつですよ。
後半明らかになるのですが、きっこは稲荷神社の秋祭りで振舞う稲荷寿司、つまり、おいなりさんを作る為、どうしても油揚げを買いに行かなければならなかったんです。
どんなに怖くても、自分の務めを果たさなければ、という決意で硬い顔つきのきっこ。
その使命感と不安の狭間に揺れるきっこを助けるのは、お月様、そして、友達のイタチのちいとにい、フクロウのろくすけです。
きっこのシリーズ、基本的な登場人物は、友達のちい・にい・ろくすけ、そしてゲストキャラクター(この絵本の場合はお月様)の構成。
シリーズ通して、きっこの周りにはいつも友達がいて、一緒に力を合わせたり、励ましあったり、助けあったり……きっこの傍から友達の影が絶える事はありません。
この絵本でも、友達皆がきっこの不安に寄り添い、イタズラから守り、手伝いをしてくれます。
友達は持ちつ持たれつ、誰かが困っていたら自分が力を貸し、自分が困っていたら誰かが力を貸してくれるもの。
きっこのお話はどれもが周りのみんなとの繋がりを大事にしていて、それをさりげなく読んでいる子供達に伝えてくれるのが、素敵な所ですね。
なお、犯人の正体を具体的に文章で語られる事はないものの、その姿はお話の最初から絵の中のあちらこちらで見えています。
その可愛い正体は最後のページで答え合わせができますが、子供と一緒にその正体を推理したり、ページのどこに隠れているのか探すのが、この絵本のお楽しみですね。
きっこのシリーズは、いつも絵の中にこっそり絵探し要素を忍ばせてありまして、この絵本では絵探し+犯人の推理となっていてるので、楽しみ方が倍増。
犯人、そんな脅かしたり、イタズラしなければ、きっことすぐに友達になれそうなものですが……。
さて、油揚げが大好きな犯人の正体がわかるかな~~?
日本の文化を伝えよう
読み終わってみると、収穫を寿ぐ秋祭りの意味、稲荷神社ときつねの関係、きつねと油揚げの関係、稲荷寿司ときつねを巡る神様の話など、日本の文化をふんだんに取り入れた絵本である事がわかります。
これらの文化について、この絵本をきっかけにお子さん達へ教えてあげるといいかもしれませんね。
大人には自明の理でも、小さな子供にはまだ馴染みのないものが多いでしょうから、日本の文化を伝える良い機会になってくれますよ。
きつねが本当に油揚げが好きなのかどうか……どうぞ一緒に考えてあげてください。
我が家の読み聞かせ
きつねのきっこシリーズ、我が家で長年大人気の絵本。
きっこは、努力家で勇敢、友達思いで優しくて、手間を惜しまぬ働き者……ちょっぴりドジな所も垣間見えて、とっても素敵な女の子なんですよ。
私は多くの絵本を読んできた中でも、特にきっこがお気に入りのキャラクターです。
日本の野山でのびのび暮らすきっこ達のお話は、息子達もお気に入りで、一体何度読んだ事か!
シリーズ物としては、間違いなく我が家で一番読まれていると思います。
どのお話も、きっこの違う一面がそれぞれ見られるので、飽きずに読めるんですよね。
『やまこえ のこえ かわこえて』は5歳次男のオススメです
きっこの友達がそれぞれの特技で、油揚げを狙う犯人を撃退する場面が大好き!
いたちのオナラが炸裂する場面では、おならネタ大好きな幼児にはたまらないらしいですよ。
このブログでは、今後もきっこの絵本をちょこちょこ紹介していきますので、お楽しみに~。
既に紹介しているきっこの絵本については、以下のリンクからご覧くださいね。
ちなみに、きっこの作るおいなりさん、酢飯を油揚げに詰めたシンプルなもの……いわゆる関東風です。
我が家で作るのは、甘く煮た干し椎茸や人参、麻の実などを酢飯に入れた関西風(?)おいなりさんなので、「その土地ごとに違うおいなりさんがあるんだよ」と息子達に話すと、妙に感心していました。
皆様が召し上がっているおいなりさんは、どんな品でしょう。
三角?
四角?
ものすごく大きいサイズ?
油揚げは裏返し?
おいなりさんひとつ取っても、地域性があるのは面白いですね。
食育の一環として、お子さんと一緒においなりさんについて話してみてはいかが?
まとめ
きっこの住まう山の稲荷神社、その秋祭りには、沢山の動物達、そして人間だって訪れます。
みんな争う事なく、共に祈り、共に祝い、共に同じおいなりさんを食べるハレの日。
きっこ達が築き上げた、この穏やかで優しい世界、遊びに行ってみたいですね。
私もきっこの作るおいなりさん、食べてみたいなー。
作品情報
- 題 名 やまこえのこえかわこえて
- 作 者 小出保子
- 出版社 福音館書店
- 出版年 2001年
- 税込価格 990円
- ページ数 28ページ
- 我が家で主に読んでいた年齢 3~5歳(年少・年中・年長、通して大ウケ)