食欲の秋と言えば、子供が好きなお野菜の筆頭サツマイモ、おいもの季節!
多くの子供達が芋掘りを楽しみ、美味しいおいもに舌鼓を打つ秋に、ぜひ読んでほしいのが、この絵本『おおきなおおきなおいも』です。
とある幼稚園の実話を元にしたこの絵本は、芋掘りの楽しさ、おいもの魅力、子供の無限の想像力がぎゅぎゅぎゅっと詰まっている1冊。
初見の方は、園児の落書きみたいな絵にぎょっとするかもしれませんが、この絵には全ての子供達に楽しんでもらう為のスゴ技の工夫が満載。
ベテラン絵本作家赤羽末吉さんの緻密な計算が張り巡らされているのです。
こーんな面白い絵本を食わず嫌いだなんて、もったいない!
ぜひ親子でじっくり味わってみて下さいねー。
簡単なあらすじ
青空幼稚園のみんなが楽しみにしていた芋掘り遠足の日に、まさかの雨……。
がっかりしていた子供達ですが、みんなで力を合わせて、おいもの絵を描く事に。
描き上げたのは、先生がビックリしてひっくり返るくらい、大きな大きなおいもの絵。
さあ、もし本当にこんな大きなおいもがあったら、どうしようか~?
絵本の紹介
子供の発想は自由!
この絵本、何が面白いって、アイデアの自由さとスケールの大きさ!
雨天中止となった芋掘り遠足にブーイングを飛ばしていた子供達が描いたおいもの絵、その大きさたるや、なんと14ページぶち抜きですよ。
ページをめくってもめくっても、まだまだ続くおいもの絵!
芋掘り遠足へのリビドーを全力でぶつけたとしか思えぬ、巨大なおいもに、いやいやどれだけ大きいのよっ、と度肝を抜かれますが、盛り上がるのはここから!
おいもを巡る子供達の想像が怒涛の勢いで繰り広げられる後半は圧巻です。
おいもを船にしたかと思えば、恐竜にしてみせ、飽きたらみんなで調理してパーティー。
サツマイモを食べればおならが出るという、誰でも思いつく連想から、おならロケットが次々打ち出されて、空へ飛んでいく子供達……もはや現実の世界から完全に空想の世界へ飛んで行ってますね。
おならネタに大人は眉を顰めたり、子供騙しに感じるかもしれませんが、小さな子供にとって、おならネタは鉄板。
おならを馬鹿にできませんよ~、小さな子供にとってのうんちが目に見える自らの分身ならば、おならは目に見えない自らの分身……おならがおかしくて笑うのは、どんな子供でも経験する大事な成長のステージです。
自由、とにかく自由でやりたい放題……これぞ、子供パワー。
爆発する子供パワーのハチャメチャさ、溜め込んだ不満が吹き飛ばされるような解放感がこの絵本の魅力です。
この絵本、東京都新宿区立鶴巻幼稚園の幼稚園教諭だった市村久子さんと園児達の実話が元になっているそうです。
表紙タイトルに”鶴巻幼稚園・市村久子の教育実践による”と一文が添えられているのはそういう訳だったのかと、その話を知った時は長年の謎が解けてスッキリしました。
ただでさえ日常が面白エピソードてんこ盛りな年頃、それが幼稚園児。
その幼稚園児の集団相手に毎日過ごす幼稚園の先生。
絵本のどこまでが実話から取られているかは定かではありませんが、それでもリアルの幼稚園児と先生の姿が下敷きになっているから、こんなにも伸びやかな絵本なんでしょうね。
なるほどー!
絵に隠されたスゴ技
初めて読む方は、小さな子供が殴り描きした落書きみたいな絵に、最初は戸惑うかもしれません。
なにしろ、出てくる大人も子供も、一筆書きみたいなシルエットを描いただけ。
顔の造作なんて目を点々でちょんちょんと描いただけなんですから、表情なんてあったもんじゃありません。
幼稚園や保育園に園児の絵として張り出されていても、全く違和感ないくらいです。
実は、この絵本を描いたのは『ももたろう』を始めとして数々の民話絵本を手掛けてきた赤羽末吉さん。
いやはや、私は大人になって気づいた時、心底驚きましたよ。
えーっ、あの、超有名な絵本作家の赤羽末吉さんが描いたの?
意外過ぎて、びっくり……赤羽末吉さんが得意とする、日本画を連想させるタッチとは、かけ離れ過ぎていて、全然わかりませんでしたよ。
なぜ、いつも独自の解釈を持ち、力強い線と美しい色彩で物語世界を創り上げていく赤羽末吉さんが、こんな落書きみたいな絵を??
この疑問、息子達へ読み聞かせした途端に雲散霧消しました。
この落書きみたいなタッチ、これこそが、この絵本の凄いポイント!
筆でさらさらと描いただけのシンプルな線の絵だからこそ、却って想像力をかき立て、どの子供、どの幼稚園や保育園にも当てはめて読む事ができる、技アリの効果が隠されていたんですよ。
元々、人間には与えられた情報の不足を想像力で補う力があり、ただの丸を描いただけでも、それを「饅頭」「月」「ボール」などと解釈する事ができます。
必要最低限の情報の要素さえ押さえてあれば、そこから如何様にでも想像ができるのが人間。
その特性を最大限に利用する為、この絵本の絵も、必要最低限の要素だけ、ピンポイントで押さえて描いてあるんです。
誰が読んでも、自分自身を投影できて、どこの幼稚園や保育園に通っていたとしても、誰もが既視感を覚える仕組み。
可能な限り、余計な要素(服装や顔立ち、表情、詳細な背景などの個性)をそぎ落としてある為、一層想像の余地が広がるようになっています。
最初は落書きみたいだと思っていたはずなのに、頭の中で勝手にイメージが補完されて、絵本が生み出すパワーの渦に巻き込まれていく……これは読んでみなければ、わからない事ですねー。
これがもし、赤羽末吉さんのいつもの画風で描かれていたとしたら、この絵本はこれほど魅力的だったでしょうか?
そこは赤羽末吉さん、それはそれで良い絵本にはなったでしょうね。
けれど、読む子供が自分自身を投影できるという特色は薄れるでしょうし、この絵本の想像を掻き立てる事で生じる爆発的な魅力も半減したでしょう。
小綺麗にまとめてしまっては、子供の想像力が生み出すパワーが打ち消されてしまう……。
赤羽末吉さんは、物語への深い理解と独自の解釈が非常に優れていた方。
お話の魅力を引き出す為に、自分が持つ多彩なテクニックを敢えて使わず、おいもを巡る子供達の想像が生み出すパワー、それだけを直球で全面に押し出す選択をした訳です。
すごいなあ……絵本作家としては、究極の引き算ではないですか?
描こうと思ったら、いくらでも描けるのに、わざと描かない、だなんて。
そんな選択、私のような凡人には思いもつきません。
赤羽末吉さんは骨の髄まで子供の為に絵本を描く「絵本作家」だったのだなと、敬服します。
色使いと文章も技あり
使われている色は、サツマイモの紫色だけ。
「おいも」というテーマが、どのページを見てもストレートに伝わる配色。
勢いよく筆を走らせて紫一色に塗りつぶされおいもは、堂々たる存在感です。
結局、この絵本に使われている色は、紙の白・線の黒・イモの紫だけ。
余計なものを徹底してそぎ落とす選択は、シンプルかつ大胆な色使いのセンスにも反映されていますね。
文のテンポの良さも小気味良く、読んでいるとテンションが上向いてくる心地よさ。
だれが何の台詞を言っているのか、語り手なのか登場人物なのか、それもすら判別がつかなくなってくる混沌とした語り口は、幼稚園児との掛け合いや唱和を楽しんでいる気分がリアルに味わえます。
子供達が我先にと喋っている雰囲気がよーく出ていますね。
絵の勢い、文章の勢い、両方が上手くかみ合って、絵本にしては長めのはずの88ページがあっという間に読み終わってしまうので、年少児でも楽しめると思います。
我が家の読み聞かせ
私がこの絵本を読み聞かせる時は、心の底に眠っている幼稚園児だった頃の自分を引っ張り出してくるイメージを持って、読んでいます。
これだけ面白い絵本なんですもの、一歩引いた大人の目線なんてかなぐり捨てて、子供の自由な想像の世界を一緒に全力で楽しまなければ、もったいない!
おいもがむくっむくっと大きくなるよと話す場面では、一緒に身体をぶるぶるっ。
手を繋いでおいもの大きさを表現する場面では、目一杯伸ばした手を息子達と繋いで、自分達のおいもを「こーーんなにおおきい!」とイメージ。
14ページにも渡る大きなおいもが描かれたページでは、「まだ~」「まだまだ~」と言いながら、息子達と意味ありげにアイコンタクト。
先生がひっくり返る場面では、待ってましたとばかりに「おおきなおおきな、お・い・も!!」と声を合わせて大合唱!
おいもを巡る想像ひとつひとつをワイワイ楽しみ、おならロケットの「いもらす1ごう」が発射されるくだりでは、みんなでジャンプ!
いやー、アクションを取りながら読み聞かせすると、ついつい童心に返りますね~~。
隣に座る息子達も目がキラキラ。
読み終わった後は、自分達の芋掘り遠足の時の話を沢山してくれるので、盛り上がります。
こんな大きなおいもがあったら、自分達だったらどうしようか、と色々アイデアを出す時間の楽しい事!
子供にとっての一大イベントお芋掘りを通して、こんなにおいもという存在を楽しみ尽くせる絵本、他にはなかなかありません。
私もかつて大好きな絵本でしたが。大人になってから改めて読むと、子供の心を惹きつける底力には感嘆します。
まとめ
いやー、子供の想像力と自由な着想がなんともエクセレントなおいも絵本でしょう?
これを読んでいると、美味しいおいもが食べたくなりますねー。
皆様がお好きなのはてんぷら?やきいも?だいがくいも?
ぜひお子さんと一緒にこの絵本を読んで、美味しいおいもを召し上がってください。
その前に、調理する前のおいもをお子さんに持たせてあげると良いですね。
「絵本と同じおいもだ!」と喜ぶ可愛い笑顔が弾けて、幸せな気分になれますよ。
作品情報
- 題 名 おおきなおおきなおいも
- 作 者 赤羽末吉・市村久子
- 出版社 福音館書店
- 出版年 1982年
- 税込価格 1,320円
- ページ数 88ページ
- 対象年齢 4歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 3~5歳(芋掘り経験があると一層盛り上がります)