とある家族に訪れた、新しい命の誕生の喜び、感動、幸福。
出産を巡るこの絵本は、あなたは望まれて生まれてきたかけがえのない存在だよ、と子供達へ伝えるのにぴったり。
絵本の中は寒さが堪える冬ですが、思い出話に込められた愛情はホッカホカです。
簡単なあらすじ
あやちゃんの6歳の誕生日がもうすぐ近づいてきました。
ママから、誕生日にどうやって自分が生まれてきたのかを聞くあやちゃん。
そう、あの頃、お父さんもおばあちゃんもおじいちゃんも、そしてママも、ずーっとお腹の中の赤ちゃんと会える日を楽しみにしていたんだよ、
でも、赤ちゃんはなかなか生まれてこなくてね……。
絵本の紹介
新しい命の誕生
1984年初版ですから、懐かしの黒電話が出てきたり、病院設備が何となく古かったり(産婦のそばにストーブでお湯を沸かしてるヤカンが……)、立ち合い出産がなかったり、と描かれる生活ぶりは今と違ってレトロ。
でも、新しい命が生まれる待ち遠しさと喜びは、今も昔も変わりません。
みんながそわそわしながらも赤ちゃんの為の準備を整えて、予定日を指折数える様子。
カレンダーを見てはため息をつき、いつ生まれるかなと話し合い、お腹に向かって呼びかける……皆様、多少の違いはあれど、似たような事をしていた覚えはありませんか?
そして、ついに生まれた時のみんなの弾んだ笑顔、優しく語り掛けられる「みんながあなたをまっていたのよ」の言葉。
赤ちゃんが生まれた喜びは、理屈ではなく、損得でもないんですよね。
生まれてきてくれてありがとう、とってもとっても嬉しいよ。
ただ純粋に赤ちゃんの誕生を愛おしみ慈しむ姿は、どの時代もどの国でもずっと続いてきた、そしてこれからも続いていく、ひとつの家族の形なのだと感動します。
新しい命って、どうしてこんなにキラキラしているんでしょう!!
読み聞かせていると、ふと自分が息子達を出産した時の事を思い出します。
自分の腕の中にいる命の重みに、喜びよりも責任の重さの方がずっしり感じて、痛みと疲労と睡眠不足のトリプルパンチで過ごした、あの病院での特別な数日……私は一生忘れる事はありません。
命が生まれてくるって、奇跡ですよ、凄い事です。
その奇跡の象徴の赤ちゃんに、最初話しかけた言葉はなんだったかなあ……。
きっと、同じように子供に読み聞かせながら、自分が出産した時はどうだったかと思い返す方は多いのではないでしょうか?
毎日の育児に追われて忘れがちな、母としての初心に帰らせてくれる絵本ですよ。
赤ちゃんを迎える家族のお話
この絵本には、出産の具体的な描写については触れられてはいません。
陣痛の痛みについては、「あかちゃんのはなしごえ」と表現。
出産の瞬間は、雪の降る病院の絵でさらーっと語られ、次のページではもう産着を着た赤ちゃんが抱かれています。
そもそもが昔の絵本ですから、表現はとってもマイルド、出産はイージーモード。
でも、これはこれでいいんですよね。
性教育目的の絵本ではなく、あくまでも、子供のあやちゃんへ聞かせてあげる出産を巡る家族の物語ですから。
家族の物語なだけあって、それぞれの登場人物の姿がさりげなく細かく描かれているのが好きな所。
予定日を過ぎた事に不安を抱くママの横顔は、既に母の自覚を持った大人の女性。
いざ入院という時に、寝ぼけ眼&パジャマ姿で慌てるお父さんには、しっかりしろよ!と背中を叩きたくなります。
産声を聞いた時、出産経験者たる余裕も見せるおばあちゃんの飄々とした笑顔には貫禄が滲みますし、赤ちゃんが生まれた知らせに年甲斐もなくぴょんぴょん足取りが弾むおじいちゃんの姿にクスッ。
あやちゃんの誕生にまつわるお話がこれでもかと語られ、そして成長して小さな女の子になったあやちゃんへこれからも注がれるでろう愛情を予感させて締めくくられる結びを読めば、子供はきっと「自分の時は?」と気になって仕方なくなるでしょうね。
さあ、お子さんへどんな話をしてあげましょうか?
我が家の読み聞かせ
我が家のちびっ子兄弟、この絵本をきっかけに、自分達が生まれた時はどうだったのかと話を聞くのが大好きになりました。
読み聞かせが終わった後は必ず、「ぼくたちの時はどうだった!?」が始まります。
お腹にいた時はみんながどう過ごしていたか、生まれてくる時はどこで何をしていたのか、どんな気持ちだったか……。
「お腹の中でよく暴れて、真夜中になるとキックやパンチをいっぱいしてたんだよ」
「甘えん坊だったから、お母さんのお腹から全然出てこなかったんだよ~」
「生まれてきたときは真っピンクの顔をしていて、子猿みたいだったんだよ」
と細かく話して、「覚えてる??」と聞くと、喜色満面ではしゃぎながら転がりまわって「覚えてな~い!」と叫ぶ息子達。
話を聞くことで、生まれる前からみんなが自分の事を大好きなんだ、みんなは自分がいると幸せなんだ、というのを何度も確認しては、こみ上げる嬉しさを噛みしめる……息子達にとって、この絵本の読み聞かせは、またとない自己肯定の機会となっているようです。
周囲からの愛情をまっすぐ信じられるというのは幸せですよね。
人は、子供の頃に愛されたという記憶が、一生を支える自己肯定感、自信の源になると聞きます。
愛情は人生における心の柱……その柱が太くて強ければ、苦しい事へ立ち向かう力になってくれるんだとか。
「生まれてきてくれてありがとう」という心が伝わるからこそ、「生んでくれてありがとう」と周りへの感謝が、自分を信じる力が生まれてくる……。
「あやちゃんのうまれたひ」には、子供にとって愛情を再確認する良いきっかけになってくれますよ。
もちろん、それぞれの家庭、それぞれの出産には異なる事情があり、誰もがあやちゃんのような子供であるとは限りません。
あやちゃんとはかけ離れた子供時代を過ごす事や、あやちゃんの家族のようになれない場合だって、珍しくはないでしょう。
人はみな違う存在ですから、心の柱がそれぞれ様子が違うのも、当たり前の事。
でも、出来る事ならば、子供が子供でいる間だけは、健やかに育ち、必要とする愛情に恵まれてほしい、「あなたが生まれてきてくれて嬉しい」と伝えられたら……と、この絵本を読むたびに願わずにはいられません。
まとめ
ぼくは、私は、どうやって生まれてきたの?
お母さんはどうやって生まれてきたの?
お父さんは、おばあちゃんは、おじいちゃんは、みんなは……?
あやちゃんの話から、家族の思い出を沢山話してみるのも楽しいですよ。
命が沢山繋がって、今ここに小さな自分がいるのだと、子供は心で感じるはず。
ぜひ、親子でじっくりと読んで、そして「だいすきだよ」の気持ちを伝えあってみてくださいね。
作品情報
- 題 名 あやちゃんのうまれたひ
- 作 者 浜田桂子
- 出版社 福音館書店
- 出版年 1984年
- 税込価格 990円
- ページ数 32ページ
- 我が家で主に読んでいた年齢 3~6歳(妊婦さんやお母さんにもオススメ)