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絵本『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』逃げた機関車を捕まえろ!

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乗り物絵本の定番と言えば、必ず名前が挙がる『きかんしゃちゅうちゅう』。

エキサイティングなストーリーと古き良きアメリカらしさを満喫できる絵をとことん楽しめる名作です。

真っ黒な鉄の色と石炭の燃える色の赤、2つの色が印象的なこの表紙をめくれば、蒸気機関車ちゅうちゅうの大変な1日が始まりますよ。

それでは、出発進行っ!!

 

 

 

簡単なあらすじ

真っ黒くてピカピカで可愛い蒸気機関車の、ちゅうちゅう。

毎日重い貨車を牽いて地道に働いていたけれど、ある日ふと考えます……どれだけ自分が速く走れる素敵な蒸気機関車か、みんなにもっと見てもらいたいなあっ!

かくして始まったちゅうちゅうの大暴走が巻き起こす大騒動。

しかも、ちゅうちゅう、気がつけばこれ、迷子になっちゃったんじゃない……?

 

 

絵本の紹介

ちゅうちゅうの絵本に隠された工夫は4つ

表紙と表紙裏こそカラーですが、中の絵はモノクロ、一見すると古めかしい絵本です。

なにしろ、初版は1937年のアメリカ、日本では1961年に出版という超ロングセラー。

そりゃ~、古い訳ですよね!

下手すると、アメリカでは家族3世代どころか、4世代、5世代で読み継いでる家があっても全然おかしくはないレベル。

しかし、その古さにもかかわらず、今もなお鉄道絵本の傑作として、世界中の子供達に愛されているちゅうちゅう……国も時代も越えてみせる絵本のすごさは圧巻です。

 

古さを一切寄せ付けない秘密は何か……自分なりに考えて、この絵本を魅力的にしているポイントを大まかに4点、列記してみましたー!

 

構成力の素晴らしさ

まず、ストーリー展開の上手さ、緩急のつけ方が見事なんですよ。

手始めに蒸気機関車ちゅうちゅうの日常を説明したかと思うと、ちゅうちゅう自身のモノローグ、それから急に始まる脱走劇!

機関士達の眼を盗んで走り出すワクワク感、周りに大騒ぎを巻き起こす愉快さ。

突然のピンチをアクション映画さながらアクロバティックに乗り切ったかと思うと、今度は迷子になった上に燃料切れという不安と後悔の連続……これからどうなってしまうのか、とハラハラ~。

どのページも息つく暇がありません。

 

 

 

 

一方で始まる機関士達の追跡もこれまた面白くて、追いかけっこの逃げる楽しさ・追う楽しさの両方を味わえる仕組み。

構成がうまいな~、とつくづく感心してしまいます。

ラストは無事にちゅうちゅうを見つけて連れ帰り、両方の立場でほっと安堵。

非日常のスカッとする楽しさと日常へと帰っていく安心感、子供がどちらの良さも味わえる絵本ですね。

 

 

親しみやすいキャラクター性

ちゅうちゅうのキャラクターも魅力的!

真面目に働くだけの蒸気機関車かと思っていたら、ただの思い付きを即実行にうつしたり、こっちを見て見てと気を惹こうとしてみたり、やり過ぎて引っ込みがつかなくなったり、心細くてシュンとなったり、お迎えが来た途端に安心して甘えた声を上げたり……あれ、小さな子供とやる事が一緒??

お陰様で、子供はこの絵本を読むと、ちゅうちゅうの一挙一動に自分を投影して楽しめるんですよね。

迷子になった経験がある子もない子も、迷子になって暗い森で動けなくなったちゅうちゅうの姿を見れば、胸がぎゅ~っと押し潰されそうになって、もう自分は家に戻れないかもしれない……と涙が後から後から溢れてくる不安な気持ちへの共感が湧いてくるかもしれません。

 

ちなみに、親御さん方は、機関士3人組に共感するかも?

ちゅうちゅうへ愛情を常に忘れず、ヘトヘトになるまでちゅうちゅうに振り回されても、まずは無事かどうか心配しする……仕事人の鏡でもあるのでしょうが、小さな子供に手を焼く親の姿も映しているようで、私はつい自分を投影してしまいます。

 

 

モノクロの絵の迫力とリアルさ

次に、このモノクロの絵の素晴らしさ!

なんと木炭で描かれているんですよ。

いくら80年以上昔とは言え、木炭以外の画材も沢山あったはず……実際、表紙裏の絵は可愛らしいカラーの絵なんですからね。

しかし、石炭で動く真っ黒な蒸気機関車の魅力を最大限に引き出す為に、あえての、木炭!

 

 

 

 

木炭の線の柔らかさと太さ、意外なほどのシャープさ、濃淡やぼかしを利用した陰影の美しさ……これらを最大限に生かし、写真のように瞬間を切り取ってみせます。

煙突からモクモクと噴き出す煙と湯気、風の動き、水の波紋、音による空気の震え、そして夕暮れ時の光と影……私達の眼には一瞬に映って消えていくその全てを木炭で描きとめてあるんです。

圧巻なのは、絵が古いなんていう最初の印象も跳ね飛ばす迫力と躍動感。

 

仕事を放り出して逃げ出したちゅうちゅうの爆走のパワフルさ。

跳ね橋をジャンプする姿には、手に汗を握るダイナミックさ。

迷い込んだ暗い森に漂う閉塞感と薄気味悪さ。

電気機関車が風を切り裂くように走り抜ける疾走感。

この絵の魅力を挙げていけば、キリがありませんね。

 

よーく見れば、人間の表情なんて大して描かれていないし、結構ラフな描き方なんですよ。

でも、リアルな印象と臨場感が全然失われていません。

これ、どうしてかなと素人ながらに考えてみたんですけど、普段電車に乗って窓から外を見る時と同じなのかも……?

スピードの速い電車に乗っている時、通り過ぎた風景の中に人がいても、その人の性別や服の印象、簡単なポーズなどの大枠は把握できたとして、目鼻立ちや表情までは把握が難しくないですか?

結局、一瞬で人間の頭に残るのは、印象の強い要素だけ。

けれど、その要素を1枚の絵に全て描きこんでいけば、後は人間の頭の中で情報が補完されていきますから、リアルさを感じるのかな……と考えているのですが、どうでしょうね?

 

 

文章の配置にも工夫あり

この絵本のすごい所を更に付け加えるならば、文章の配置まで凝っているんです。

二股に分かれた線路に差し掛かる場面では、文章の配置がくねくねと蛇行して配置。

これが、遠くまでくねくねと走ってきたという印象、不安や迷いを実にうまく演出しているんですよね。

小学生の頃にこれを気付いた時には、「ああ、絵本って文字の配置すらも重要な意味があるんだ」と感心しました。

この配置、アメリカでの出版当初からあったのかどうか、気になるんですよ……調べてみてもちょっとよくわからないんですけど、いつか知りたいな~!

 

 

作者と訳者をご紹介

ヴァージニア・リー・バートンさんは名作絵本『ちいさいおうち』でも有名な絵本作家ですね。

 

 

ノスタルジーを感じる題材を取り扱う事が多いですが、透徹した観察眼と高い写実性、細部までの描写を手を抜く事なく徹底する完璧主義を感じます。

そのおかげか、蒸気機関車が走る昔のアメリカの田舎町なんて、私は実際には見た事がないのに、よく知っている町のような錯覚が……。

国も文化も時代も違う人間にも伝わる描写力を前にすると、絵本作家として大変優れた方だったのだとわかります。

あ~、最初の方で古めかしいなんて評して、すみませんでしたー!

 

村岡花子さんの訳も品があって素敵です。

今の絵本のように砕けた親しみやすさはありませんが、豊富な語彙と独特のリズム感を持った文章は読みやすく、正統な日本語とでも言うような美しい響きがあります。

子供の頃から、こんな美しい言葉に触れられるというのも、絵本ならではの贅沢……ぜひ楽しんで頂きたいですね。

 

 

我が家の読み聞かせ

私が子供の頃に繰り返し何度も読んだ大好きな絵本でしたので、我が子にもぜひ読ませたいと考えていた1冊。

長男へ初めての絵本を揃える時も、真っ先にこの絵本を購入!

その甲斐あってか、我が家のちびっ子兄弟にとって、幼児期における蒸気機関車LOVEを決定付けた運命の絵本となりました。

 

長男は3歳前から6歳手前まで、次男は1歳から4歳までが特に大好きで、繰り返し読みまくりましたよ。

ちゅうちゅうが勝手に走り出す姿では興奮し、迷子になって動けなくなる場面では「も~、ちゅうちゅうったら~~」と嬉しそうに注意し、無事に見つけてもらえた場面では「良かったねー、でももう勝手な事しちゃダメだよ」とお兄さんぶるのがお決まり。

あんまり何回も読むので、よく飽きないなと感心しましたよー、読み過ぎて私の方が「えー、またちゅうちゅう~~?」と音を上げかけたくらいです。

結構文章量がしっかりある絵本なので、低年齢の幼児では読んでいる途中で飽きが来るはずなのですが、さすがはちゅうちゅう、絵の力で読ませてしまうんですね。

 

息子達への年齢ごとの読み聞かせについては、以下の通り。

  • 1~2歳頃までは、読み上げる文章を約8割省き、絵を見て楽しむ形。
  • 簡単な筋立てを理解し始める3~4歳頃からは、徐々に読む文章の量を増加。
  • 5歳前に全文を読んで理解、物語を通して楽しむ。

子供には個人差がありますし、絵本紹介などではこの絵本を3歳から勧めている事が多いんですけど、3歳だと全部通して読むのは飽きてしまう子もいそうなので、要注意。

鉄道大好き、蒸気機関車大好きな息子2人でも、幼稚園年少までは我慢がなかなか利かなかったもので……結局、子供に物語を楽しむ力がついているかどうか、が大きいんでしょうね。


 

まとめ

この絵本がアメリカで出版された頃には、既に蒸気機関車は斜陽の時代へと差し掛かっていました。

蒸気機関車を風のようなスピードで走る、と讃えていたのは過去の話。

時代は、絵本にも出てきた、更に速いスピードで走るディーゼル機関車が主流へと切り替わる頃……この絵本のちゅうちゅうは、既に当時の読者の子供達にとっても、ノスタルジーの対象になりつつあったんですよね。

 

でも、バートンさんはそんな古い存在に焦点を当てて、こんなにも魅力的な絵本を生み出しました。

新しさを求めるだけでなく、古いものも大切にしていく心も込められた、小さな蒸気機関車の物語。

ぜひ、これからの未来を生きる子供達にこそ読んでほしいですね。

 

 

作品情報

  • 題 名  いたずらきかんしゃちゅうちゅう
  • 作 者  ヴァージニア・リー・バートン
  • 訳 者  村岡花子
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  1961年
  • 税込価格 1,320円
  • ページ数 46ページ
  • 我が家で主に読んでいた年齢 1~5歳(鉄道の好き嫌い関係なくオススメ!)